イチジクを包んで焼く、クリスマスの大きな輪
ブッチェッラート
Buccellato / Cucciddatu(シチリア語)
- 発祥
- イタリア・パレルモItalia / Palermo
- 分類
- 焼き菓子
- 主材料
- 小麦粉・ラード・干しイチジク・レーズン・木の実
- 地方
- シチリア島 / パレルモ県
- 近縁
- ベラヴェッカ
- 記録
- 1件
- 期間
- 2010
- 図版
- 7点







定義
ブッチェッラートは、シチリア島のクリスマスの焼き菓子だ。干したイチジクにレーズンや木の実を練り合わせた詰め物を、を使った甘い生地で包み、大きな輪にして焼く。表面につけた畝(うね)のような模様が目印だ。シチリアの言葉では「クッチッダートゥ(cucciddatu)」と呼ぶ。
由来
名は、古いラテン語の buccellatum から来ている。兵士が肩に背負って運んだ、長く持つように焼き固めたパンを指した言葉だ。さらにたどると、「一口」を表す buccella、「口」を表す bucca に行き着く。シチリアの呼び名クッチッダートゥも、同じ言葉が島の発音で形を変えたものだ。
ただ、古い記録のクッチッダートゥは、菓子ではなくパンだった。18世紀の本には、島の村の婚礼で、花婿が冠の形をした輪のパンを腰に下げて花嫁を迎えに行く、とある。昔のシチリア語の辞典も「輪の形のパン」と説明するだけで、イチジクもクリスマスも出てこない。
甘い菓子の姿がはっきり書き残されるのは、19世紀の終わりだ。シチリアの昔の暮らしや祭りを記録した学者ピトレは、こう書いた。「甘い生地の大きな輪で、中にレーズン、イチジク、刻んだクルミを練り合わせたものが入る」。いまの姿と、ほとんど変わらない。パンがいつ甘い菓子になったのかは、分かっていない。
分布
パレルモの老舗の菓子屋では、大きな輪がショーケースのガラス棚に何段も重ねて置かれている。一切れずつではなく、丸ごと一つで売られていた。同じ店には、カンノーロや、アーモンドの練り物で果物をかたどった細工も並ぶ。
形と呼び名は、島の中でも土地ごとに違う。大きな輪のほかに、四角いものや、手のひらにのるほど小さなものもある。イタリア農業省がまとめた伝統食品の一覧には、島の内陸にあるエンナ県アイドーネの四角い「ブッチェッラート」と、西のトラーパニ県ポッジョレアーレの「クッチッダータ(cucciddata)」が、別々の品として載っている。
構造と製法
生地は、小麦粉にラードと砂糖を合わせたもの。詰め物を棒のようにのばしてこの生地で包み、輪にして焼く。焼く前に、表面へ模様をつけるのが決まりだ。パレルモの大きな輪では、専用のピンセットで生地をつまんで、畝のような模様を立てる。パレルモの製菓材料の会社は、この道具を「ブッチェッラート用ピンセット」として売っている。ポッジョレアーレの小さなものは、専用の小さなナイフで切り込みを入れる。
詰め物は干しイチジクが中心で、レーズン、アーモンドやクルミを刻んで合わせ、シナモンやで香りをつける。ブドウの汁を煮詰めた甘いシロップや、蜂蜜でまとめる作り方もある。柑橘の皮や酒を加えるかどうかは、店や家しだいだ。
パレルモの店のものは、直径30センチほどの大きな輪で、斜めの畝のような模様が規則正しく並び、刻んだピスタチオが散らしてあった。生地はクッキーのようにサクッと割れるというより、目が詰まっていて少ししっとりしている。持つとずしりと重い。甘さは、同じシチリア島ののクリームを使う菓子、カッサータやカンノーロほど強くなく、干した果物の甘さが前に出る。スパイスと酒の香りもはっきりと感じられる。
変種と周辺
同じ名前で、まったく別の菓子もある。トスカーナ州の町ルッカのブッチェッラートは、とレーズンを入れて発酵させた甘いパンで、中に詰め物はない。イタリア語の辞典で「ブッチェッラート」を引くと、説明されているのはこちらのほうだ。北イタリアの輪の焼き菓子「ブッソラーノ」も、名前は同じ古い言葉から来ている。
島の中でいちばん近いのは、「ヌカートゥラ」という菓子だ。アーモンドと干しイチジク、レーズンに砂糖と蜂蜜を合わせ、生地で包んで窯で焼く。19世紀の記録では、クリスマスの贈り物として、ブッチェッラートと並んで名前が出てくる。
供される場面
クリスマスの菓子だ。19世紀のシチリアでは、婚約した男性が祭日ごとに相手の娘へ贈り物をし、クリスマスにはこの菓子を届けた。クリスマスを待つ九日間、家々をまわって歌う流しの歌い手たちは、最後の日にレーズンと干しイチジクのブッチェッラートをお礼にもらったという。丸ごと売られる大きな輪は、一人で食べる大きさではない。切り分けて、何人かで食べる。
記録から見えること
記録は、パレルモの一軒の菓子屋で買った一つだけだ。クリスマスの菓子なのに、その店では春にも大きな輪が棚に重ねてあり、丸ごと売られていた。手に取ると見た目よりずしりと重く、切ると詰め物が生地の内側いっぱいに詰まっている。
文献の記録
| 年 | 記録 | 資料 |
|---|---|---|
| 4世紀末 | ラテン語 buccellatum は、兵士が肩に背負って運んだ、長く持つように焼き固めたパン原文と訳firmatoque consilio XX dierum frumentum ex eo, quod erat in sedibus consumendum, ad usus diuturnitatem excoctum bucellatum, ut vulgo appellant, umeris inposuit libentium militum そう決めると、駐屯地で食べるはずだった穀物のうち二十日分を、長くもつように焼き固めて——ふつう「ブッケッラートゥム」と呼ばれるものだ——、進んで引き受けた兵士たちに背負わせた。 第17巻 8章2節 訳:郷土菓子研究社 | アンミアヌス・マルケッリヌス『歴史』第17巻(原文を開く) |
| 1761 | 島の村の婚礼で、花婿が「シチリア人がブッチェッラートと呼ぶ、冠の形の輪のパン」を腰に下げる。シチリアのいちばん古い記録原文と訳… è solito, che lo Sposo stranamente vestito, appeso al destro fianco un Pane formato a cerchio in foggia di corona, che Buccellato nominano i Siciliani, vada a prender la Sposa … ……花婿は風変わりな身なりで、右の腰に、冠のような輪の形にしたパン——シチリアの人がブッチェッラートと呼ぶもの——を下げて、花嫁を迎えに行くのがならわしだ…… 第1巻 42頁 訳:郷土菓子研究社 | アルカンジョロ・レアンティ『シチリアの現状』第1巻(原文を開く) |
| 1785 | クッチッダートゥの古い形を並べ、「花輪の形のパン」、ラテン語 buccellatum からと説明原文と訳Gucciddatu, pane fatto a girlanda, pane a corona, panis siligineus. V. Vopisco in Aureliano, coronas eum fecisse de panibus, qui nunc siliginei vocantur. Dal lat. buccellatum … グッチッダートゥ。花輪の形に作ったパン、冠のパン。ウォピスクスのアウレリアヌス伝「パンで冠を作った」を見よ。ラテン語の buccellatum から…… 第2巻(1786年、第1巻と合本)267頁 見出し「Gucciddatu」 訳:郷土菓子研究社 | ミケーレ・パスクアリーノ『シチリア語語源・伊・羅辞典』(原文を開く) |
| 1868 | 「輪の形のパン。イタリア語の buccellato は同じ形だが、ふつうは甘い」原文と訳Gucciddatu, s. m. Forma di pane a cerchio: pan a ciambella; in ital. vi è bucellato, e bracciatello, che han la detta forma, ma soglion esser dolci. || GUCCIDDATU CU LI PASSULI: maritozzo. グッチッダートゥ。輪の形のパン。イタリア語にも buccellato や bracciatello があって、形は同じだが、たいてい甘い。|レーズン入りのグッチッダートゥは、マリトッツォ。 455頁 見出し「Gucciddatu」 訳:郷土菓子研究社 | アントニーノ・トライナ『新シチリア語・伊語辞典』(原文を開く) |
| 1879 | 婚約した男性が、クリスマスに娘へクッチッダートゥを贈る。「クリスマスのものは、レーズンとイチジクのもの」原文と訳… per Natale, i mostaccioli, o le nucàtuli, o il cucciddatu … Il Cucciddatu di Natale è quello di passuli e ficu, detto in Toscana maritozzo. ……(婚約した男性は娘に)クリスマスには、モスタッチョーリか、ヌカートゥリか、クッチッダートゥを。……クリスマスのクッチッダートゥは、レーズンとイチジクのもので、トスカーナではマリトッツォと呼ぶ。 78頁 本文と、巻末の注(131–132頁) 訳:郷土菓子研究社 | ジュゼッペ・ピトレ『シチリアの人々の誕生・婚礼・葬送の習わし』(原文を開く) |
| 1881 | クリスマス前の九日間の祈りの終わりに、語り手が「レーズンと干しイチジクのブッチェッラート」をもらう原文と訳Fuori Palermo i cantastorie … conchiudono la novena con due versi che dimandano il pagamento di un carlino (cent. 21), e il regalo di un bucellato di uva passa e fichi secchi, che loro si suol fare dai divoti. パレルモの外では、語り手たちは九日間の祈りを二行の歌で締めくくり、1カルリーノ(21チェンテージモ)のお礼と、信心深い人たちがいつも贈る、レーズンと干しイチジクのブッチェッラートをねだる。 434頁 訳:郷土菓子研究社 | ピトレ『シチリアの民衆の見世物と祭り』(原文を開く) |
| 1889 | 「甘い生地の大きな輪で、中にレーズン、イチジク、刻んだクルミ」。いまの菓子の最初の定義原文と訳Cucciddatu, grossa ciambella di pasta dolce, entro la quale è un impasto di uva passa, fichi, noci tritate. クッチッダートゥ。甘い生地の大きな輪で、中にレーズン、イチジク、刻んだクルミを練り合わせたものが入っている。 第4巻 食べ物の付録「菓子」362頁 訳:郷土菓子研究社 | ピトレ『シチリアの人々の習わし・風習・信仰・迷信』第4巻(原文を開く) |
| 2016 | 農業省の伝統的な農産食品の一覧に、アイドーネのブッチェッラートとポッジョレアーレのクッチッダータ(遅くともこの年から)原文と訳Regione Siciliana — Paste fresche e prodotti della panetteria, della biscotteria, della pasticceria e della confetteria: 117 Buccellato … 134 Cucciddata シチリア州——生パスタ・パン・ビスケット・菓子・糖菓:117 ブッチェッラート……134 クッチッダータ 第16次改訂(官報2016年6月21日第143号)別表 シチリア州 117・134 訳:郷土菓子研究社 | イタリア農業省 伝統的農産食品 第16次改訂(原文を開く) |
観察記録
| № | 年月 | 町 | 所見 | |
|---|---|---|---|---|
| 01 | 2010.04.29(当時のサイト「シシリアの車窓から」を開く) | パレルモ | ショーケースのガラス棚に、直径30センチほどの輪を重ねて置く。一切れでは売っておらず、丸ごと買って、その夜ナポリへ向かう船で切り分けた。表面に斜めの畝のような模様が並び、刻んだピスタチオが散る。薄い生地の内側に、黒っぽい詰め物と木の実の粒。日記に「生地はそこまで硬くないがしっかり重い感じ」「中は、ドライフルーツ、ピール系(柑橘の皮)、レーズン、ナッツ、酒」 | 当時のサイト「シシリアの車窓から」を開く |
この菓子を買った店
- Mazzaraパレルモ・イタリア2010.04.29
店名は写真の看板・値札・紙袋から起こしたもの。住所は写真に写っていたもの、または後から調べて確かめたもの。