郷土菓子

イチジクを包んで焼く、クリスマスの大きな輪

ブッチェッラート

Buccellato / Cucciddatu(シチリア語)

発祥
イタリア・パレルモItalia / Palermo
分類
焼き菓子
主材料
小麦粉・ラード・干しイチジク・レーズン・木の実
地方
シチリア島 / パレルモ県
近縁
ベラヴェッカ
記録
1件
期間
2010
図版
7点
ローマパレルモ
イタリアパレルモ
ローマパレルモ
イタリアパレルモ
金色の台紙にのった、きつね色の大きな輪の形の焼き菓子。表面に斜めの畝のような模様が規則正しく並び、緑の粒が散っている
図1パレルモの菓子屋で買ったホール。大きな輪の表面に、ピンセットでつまんだ斜めの畝(うね)が並び、刻んだピスタチオが散っている(2010年4月、ナポリへ向かう船で)
ガラス棚に、きつね色の輪の形の焼き菓子がいくつも重ねて置かれている。奥に酒の瓶が並ぶ
図2菓子屋のショーケース。輪の形のブッチェッラートが、ガラスの棚に重ねて置かれている(2010年4月、パレルモの Antica Pasticceria Mazzara)
青い布の上に、白っぽい生地の小さな輪の菓子がたくさん並ぶ。輪の切り込みから茶色の詰め物がのぞき、色とりどりの粒が散らしてある。中央にイチジクの葉と実
図3小さなブッチェッラート。輪に窓のような切り込みを入れて詰め物を見せ、色の粒を散らしている(カターニア県サン・ミケーレ・ディ・ガンザリア)写真:Salvatore Farina/ウィキメディア・コモンズ(CC0)
ガラスのショーケースに、砂糖漬けの果物をのせた大きな輪の焼き菓子。表面に斜めの筋が並ぶ。右の皿に粉砂糖をかけた小さな菓子
図4パレルモの菓子屋のショーケース。大きな輪の表面に、つまんで立てた畝が並ぶ。右は小さなもの写真:Dedda71/ウィキメディア・コモンズ(CC BY-SA 3.0)
紙のカップにのった一切れの断面。黄色っぽい生地の中に、黒褐色の詰め物と白い木の実の粒が見える。奥に切った輪の残り
図5切り分けた一切れ。薄い生地の内側に、干した果物と木の実を練り合わせた黒っぽい詰め物がぎっしり入る(2010年4月、ナポリへ向かう船で)
切り分けた輪の形の焼き菓子。二か所の切り口に、黒っぽい詰め物の断面がのぞく
図6切り口から見た輪。詰め物は輪のどこを切っても同じように入っている(2010年4月、ナポリへ向かう船で)
罫線のノートに、輪の形の菓子と断面の小さな絵。横に「BUCCELLATO」と囲んだ字と、生地と中身についての手書きの説明
図7旅の日記に描いた輪と断面の絵。「生地はそこまで硬くないがしっかり重い感じ」「中は、ドライフルーツ、ピール系、レーズン、ナッツ、酒」(2010年4月、パレルモ)

定義

ブッチェッラートは、シチリア島のクリスマスの焼き菓子だ。干したイチジクにレーズンや木の実を練り合わせた詰め物を、を使った甘い生地で包み、大きな輪にして焼く。表面につけた畝(うね)のような模様が目印だ。シチリアの言葉では「クッチッダートゥ(cucciddatu)」と呼ぶ。

由来

名は、古いラテン語の buccellatum から来ている。兵士が肩に背負って運んだ、長く持つように焼き固めたパンを指した言葉だ。さらにたどると、「一口」を表す buccella、「口」を表す bucca に行き着く。シチリアの呼び名クッチッダートゥも、同じ言葉が島の発音で形を変えたものだ。

ただ、古い記録のクッチッダートゥは、菓子ではなくパンだった。18世紀の本には、島の村の婚礼で、花婿が冠の形をした輪のパンを腰に下げて花嫁を迎えに行く、とある。昔のシチリア語の辞典も「輪の形のパン」と説明するだけで、イチジクもクリスマスも出てこない。

甘い菓子の姿がはっきり書き残されるのは、19世紀の終わりだ。シチリアの昔の暮らしや祭りを記録した学者ピトレは、こう書いた。「甘い生地の大きな輪で、中にレーズン、イチジク、刻んだクルミを練り合わせたものが入る」。いまの姿と、ほとんど変わらない。パンがいつ甘い菓子になったのかは、分かっていない。

分布

パレルモの老舗の菓子屋では、大きな輪がショーケースのガラス棚に何段も重ねて置かれている。一切れずつではなく、丸ごと一つで売られていた。同じ店には、カンノーロや、アーモンドの練り物で果物をかたどった細工も並ぶ。

形と呼び名は、島の中でも土地ごとに違う。大きな輪のほかに、四角いものや、手のひらにのるほど小さなものもある。イタリア農業省がまとめた伝統食品の一覧には、島の内陸にあるエンナ県アイドーネの四角い「ブッチェッラート」と、西のトラーパニ県ポッジョレアーレの「クッチッダータ(cucciddata)」が、別々の品として載っている。

構造と製法

生地は、小麦粉にラードと砂糖を合わせたもの。詰め物を棒のようにのばしてこの生地で包み、輪にして焼く。焼く前に、表面へ模様をつけるのが決まりだ。パレルモの大きな輪では、専用のピンセットで生地をつまんで、畝のような模様を立てる。パレルモの製菓材料の会社は、この道具を「ブッチェッラート用ピンセット」として売っている。ポッジョレアーレの小さなものは、専用の小さなナイフで切り込みを入れる。

詰め物は干しイチジクが中心で、レーズン、アーモンドやクルミを刻んで合わせ、シナモンやで香りをつける。ブドウの汁を煮詰めた甘いシロップや、蜂蜜でまとめる作り方もある。柑橘の皮や酒を加えるかどうかは、店や家しだいだ。

パレルモの店のものは、直径30センチほどの大きな輪で、斜めの畝のような模様が規則正しく並び、刻んだピスタチオが散らしてあった。生地はクッキーのようにサクッと割れるというより、目が詰まっていて少ししっとりしている。持つとずしりと重い。甘さは、同じシチリア島ののクリームを使う菓子、カッサータやカンノーロほど強くなく、干した果物の甘さが前に出る。スパイスと酒の香りもはっきりと感じられる。

変種と周辺

同じ名前で、まったく別の菓子もある。トスカーナ州の町ルッカのブッチェッラートは、とレーズンを入れて発酵させた甘いパンで、中に詰め物はない。イタリア語の辞典で「ブッチェッラート」を引くと、説明されているのはこちらのほうだ。北イタリアの輪の焼き菓子「ブッソラーノ」も、名前は同じ古い言葉から来ている。

島の中でいちばん近いのは、「ヌカートゥラ」という菓子だ。アーモンドと干しイチジク、レーズンに砂糖と蜂蜜を合わせ、生地で包んで窯で焼く。19世紀の記録では、クリスマスの贈り物として、ブッチェッラートと並んで名前が出てくる。

供される場面

クリスマスの菓子だ。19世紀のシチリアでは、婚約した男性が祭日ごとに相手の娘へ贈り物をし、クリスマスにはこの菓子を届けた。クリスマスを待つ九日間、家々をまわって歌う流しの歌い手たちは、最後の日にレーズンと干しイチジクのブッチェッラートをお礼にもらったという。丸ごと売られる大きな輪は、一人で食べる大きさではない。切り分けて、何人かで食べる。

記録から見えること

記録は、パレルモの一軒の菓子屋で買った一つだけだ。クリスマスの菓子なのに、その店では春にも大きな輪が棚に重ねてあり、丸ごと売られていた。手に取ると見た目よりずしりと重く、切ると詰め物が生地の内側いっぱいに詰まっている。

ローマパレルモ
イタリアパレルモ

文献の記録

年記録資料
4世紀末ラテン語 buccellatum は、兵士が肩に背負って運んだ、長く持つように焼き固めたパン
原文と訳
firmatoque consilio XX dierum frumentum ex eo, quod erat in sedibus consumendum, ad usus diuturnitatem excoctum bucellatum, ut vulgo appellant, umeris inposuit libentium militum

そう決めると、駐屯地で食べるはずだった穀物のうち二十日分を、長くもつように焼き固めて——ふつう「ブッケッラートゥム」と呼ばれるものだ——、進んで引き受けた兵士たちに背負わせた。

第17巻 8章2節 訳:郷土菓子研究社

アンミアヌス・マルケッリヌス『歴史』第17巻(原文を開く)
1761島の村の婚礼で、花婿が「シチリア人がブッチェッラートと呼ぶ、冠の形の輪のパン」を腰に下げる。シチリアのいちばん古い記録
原文と訳
… è solito, che lo Sposo stranamente vestito, appeso al destro fianco un Pane formato a cerchio in foggia di corona, che Buccellato nominano i Siciliani, vada a prender la Sposa …

……花婿は風変わりな身なりで、右の腰に、冠のような輪の形にしたパン——シチリアの人がブッチェッラートと呼ぶもの——を下げて、花嫁を迎えに行くのがならわしだ……

第1巻 42頁 訳:郷土菓子研究社

アルカンジョロ・レアンティ『シチリアの現状』第1巻(原文を開く)
1785クッチッダートゥの古い形を並べ、「花輪の形のパン」、ラテン語 buccellatum からと説明
原文と訳
Gucciddatu, pane fatto a girlanda, pane a corona, panis siligineus. V. Vopisco in Aureliano, coronas eum fecisse de panibus, qui nunc siliginei vocantur. Dal lat. buccellatum …

グッチッダートゥ。花輪の形に作ったパン、冠のパン。ウォピスクスのアウレリアヌス伝「パンで冠を作った」を見よ。ラテン語の buccellatum から……

第2巻(1786年、第1巻と合本)267頁 見出し「Gucciddatu」 訳:郷土菓子研究社

ミケーレ・パスクアリーノ『シチリア語語源・伊・羅辞典』(原文を開く)
1868「輪の形のパン。イタリア語の buccellato は同じ形だが、ふつうは甘い」
原文と訳
Gucciddatu, s. m. Forma di pane a cerchio: pan a ciambella; in ital. vi è bucellato, e bracciatello, che han la detta forma, ma soglion esser dolci. || GUCCIDDATU CU LI PASSULI: maritozzo.

グッチッダートゥ。輪の形のパン。イタリア語にも buccellato や bracciatello があって、形は同じだが、たいてい甘い。|レーズン入りのグッチッダートゥは、マリトッツォ。

455頁 見出し「Gucciddatu」 訳:郷土菓子研究社

アントニーノ・トライナ『新シチリア語・伊語辞典』(原文を開く)
1879婚約した男性が、クリスマスに娘へクッチッダートゥを贈る。「クリスマスのものは、レーズンとイチジクのもの」
原文と訳
… per Natale, i mostaccioli, o le nucàtuli, o il cucciddatu … Il Cucciddatu di Natale è quello di passuli e ficu, detto in Toscana maritozzo.

……(婚約した男性は娘に)クリスマスには、モスタッチョーリか、ヌカートゥリか、クッチッダートゥを。……クリスマスのクッチッダートゥは、レーズンとイチジクのもので、トスカーナではマリトッツォと呼ぶ。

78頁 本文と、巻末の注(131–132頁) 訳:郷土菓子研究社

ジュゼッペ・ピトレ『シチリアの人々の誕生・婚礼・葬送の習わし』(原文を開く)
1881クリスマス前の九日間の祈りの終わりに、語り手が「レーズンと干しイチジクのブッチェッラート」をもらう
原文と訳
Fuori Palermo i cantastorie … conchiudono la novena con due versi che dimandano il pagamento di un carlino (cent. 21), e il regalo di un bucellato di uva passa e fichi secchi, che loro si suol fare dai divoti.

パレルモの外では、語り手たちは九日間の祈りを二行の歌で締めくくり、1カルリーノ(21チェンテージモ)のお礼と、信心深い人たちがいつも贈る、レーズンと干しイチジクのブッチェッラートをねだる。

434頁 訳:郷土菓子研究社

ピトレ『シチリアの民衆の見世物と祭り』(原文を開く)
1889「甘い生地の大きな輪で、中にレーズン、イチジク、刻んだクルミ」。いまの菓子の最初の定義
原文と訳
Cucciddatu, grossa ciambella di pasta dolce, entro la quale è un impasto di uva passa, fichi, noci tritate.

クッチッダートゥ。甘い生地の大きな輪で、中にレーズン、イチジク、刻んだクルミを練り合わせたものが入っている。

第4巻 食べ物の付録「菓子」362頁 訳:郷土菓子研究社

ピトレ『シチリアの人々の習わし・風習・信仰・迷信』第4巻(原文を開く)
2016農業省の伝統的な農産食品の一覧に、アイドーネのブッチェッラートとポッジョレアーレのクッチッダータ(遅くともこの年から)
原文と訳
Regione Siciliana — Paste fresche e prodotti della panetteria, della biscotteria, della pasticceria e della confetteria: 117 Buccellato … 134 Cucciddata

シチリア州——生パスタ・パン・ビスケット・菓子・糖菓:117 ブッチェッラート……134 クッチッダータ

第16次改訂(官報2016年6月21日第143号)別表 シチリア州 117・134 訳:郷土菓子研究社

イタリア農業省 伝統的農産食品 第16次改訂(原文を開く)

観察記録

№年月町所見
012010.04.29(当時のサイト「シシリアの車窓から」を開く)パレルモショーケースのガラス棚に、直径30センチほどの輪を重ねて置く。一切れでは売っておらず、丸ごと買って、その夜ナポリへ向かう船で切り分けた。表面に斜めの畝のような模様が並び、刻んだピスタチオが散る。薄い生地の内側に、黒っぽい詰め物と木の実の粒。日記に「生地はそこまで硬くないがしっかり重い感じ」「中は、ドライフルーツ、ピール系(柑橘の皮)、レーズン、ナッツ、酒」当時のサイト「シシリアの車窓から」を開く

この菓子を買った店

  • Mazzaraパレルモ・イタリア2010.04.29

店名は写真の看板・値札・紙袋から起こしたもの。住所は写真に写っていたもの、または後から調べて確かめたもの。

この菓子に出会った旅

郷土菓子の一覧へ