緑の帯をまとう、とびきり甘いケーキ
カッサータ
Cassata[kasˈsata] / Cassata siciliana
- 発祥
- イタリア・パレルモItalia / Palermo
- 分類
- 生菓子(チーズ菓子)
- 主材料
- リコッタチーズ・スポンジ生地・マジパン・砂糖漬けの果実
- 地方
- シチリア島 / パレルモ県
- 近縁
- スフォリアテッレ
- 記録
- 5件
- 期間
- 2010–2012
- 図版
- 11点










定義
カッサータは、シチリア島の丸いケーキだ。砂糖で甘くしたチーズのクリームをスポンジ生地で包み、側面を、アーモンドと砂糖を練った緑ので囲う。上からはと呼ばれる白い砂糖の衣で覆い、砂糖漬けの果実を大きいまま並べる。本場はパレルモ。大きいものは直径30センチほどあり、切り分けて皿で出される。
由来
名前の由来は、18世紀から言い合いになってきた。1785年のシチリア語の語源辞典が、四つの説を並べている。生地の箱に詰めるから「incassata」だという説。チーズの平焼きを指すスペイン語の quesada、「覆う」を意味するヘブライ語の casah、ラテン語でチーズを指す caseus も挙がっている。この辞典を書いたパスクアリーノが採ったのは、最後のラテン語だ。というチーズで作るカッサータもあったからだという。
よく耳にするアラビア語の説が出てくるのは、そのあとだ。イスラーム期シチリアの歴史家ミケーレ・アマーリが、1872年にこう書いている。アラビア語の kas'at は大きく深い鉢を指し、この菓子の生地もそういう形をしている。だからアラビア語から来たものに思われる、と。言い切ってはいない。いつかアラビア語にも本格的な語源辞典が出れば分かるだろう、と同じ注に書き添えている。いまのイタリア語の辞典が採るのも、やはりラテン語のほうだ。
名前の話はここまで。形も昔と今ではまるで違う。14世紀の写本が指していたのは、パン生地でチーズを包んで焼いたものだった。17世紀の修道院の料理書に載る二つの作り方も、やはり窯に入れる。アマーリが「生地が鉢の形」と書いたのは、この包んで焼く姿のことだ。
いまの派手な飾りが現れるのは、18世紀の終わりだ。1799年のパレルモの修道院の記録に、マジパンと砂糖のグラッサと砂糖漬けの果実で飾ったカッサータが出てくる。ただし19世紀の後半になっても、シチリア語の辞典は「甘くしたリコッタを甘い生地で包んだ丸いもの」とだけ書いている。飾りはまだ、町の人の言う「カッサータ」には入っていなかったのだ。
この形を世に広めたのは、パレルモの菓子職人サルヴァトーレ・グリだと言われている。1873年、ウィーンの催しで砂糖漬けの瓜の飾りを披露した。作り出した人ではなく、広めた人。ただ、材料をたどればアラブとのつながりは確かだ。サトウキビも柑橘もアーモンドも、9世紀から11世紀のアラブ支配の時代に島へ入ってきた。
分布
パレルモの菓子屋では、切り分けたものがショーケースに並ぶ。白いグラッサの上に砂糖漬けのチェリーとオレンジピールがのり、切り口からは側面の緑がのぞいている。ホールは値札を付けて冷蔵の棚に置かれる。隣に並ぶのは「」や、果物をかたどったマジパン菓子だ。
島の中では、パレルモだけの菓子ではない。イタリア農業省が土地の伝統食品として挙げているのは、アグリジェントからトラーパニまで、シチリアの9県すべてだ。パレルモの名で知られていても、作っているのは島じゅうだ。
島の外にも出ていく。北イタリアの菓子屋でも、南の菓子としてカンノーロと並べて置かれることがある。ただし並ぶのは一口大の小さいもので、ホールはめったに見かけない。
構造と製法
外から順に、白いグラッサ、緑のマジパン、スポンジ生地、そしてリコッタのクリーム。四層になっている。側面までマジパンとグラッサで包むので、切るまで中身は見えない。生地はで、リキュールや果汁を含ませる。クリームが多いぶん、断面ではスポンジが薄い層になっている。
クリームに混ぜ込むのは、チョコレートの粒と砂糖漬けのチェリー、オレンジピール。リコッタは、伝統的には羊の乳のものを使う。側面のマジパンは、シチリアではと呼ばれる。これも飾りではなく食べるもので、食べ応えのある厚みだ。
変種と周辺
焼く形も残っている。生地で包んで窯に入れる「」で、パレルモの周辺に多い。一口大の小さいものは「」と呼ばれ、白いクリームと砂糖漬けのチェリーが決まってのっている。
いちばん近いのはカンノーロだ。リコッタのクリームという中身を分け合っている。シチリアの菓子屋を回ると、このクリームとマジパン細工に何度も出会う。果物をかたどったマジパン菓子も、側面の緑の帯と同じものでできている。カッサータは、その二つを一つに束ねた菓子といえる。
供される場面
もとはの菓子だ。修道院で作られ、祝いの日に食べるものだった。「復活祭のカッサータを取り逃がす者は情けない」。民俗学者ジュゼッペ・ピトレが書き留めた言い習わしだ。復活祭に婚約者が相手へ贈るという記録も残っている。いまは季節を問わず棚に並ぶ。
菓子屋では、皿に取り分けて店内で食べられる。添える飲み物に決まりはないが、島ではエスプレッソが多い。菓子屋は人の集まる場所でもある。カウンターには新聞を読む客も、エスプレッソだけの客もいる。
記録から見えること
先に来るのは甘さだ。日本の菓子に慣れた舌では、とても受けとめきれない。歯にしみ込み、喉が焼けるような甘さ。それでも食べ進めると、甘さの向こう側から味が現れてくる。クリームはずっしりと濃厚だが、脂っこさはない。チーズなのに、塩気も酸味も出てこない。シチリアに着いた日の記録にも「予想通り甘甘」とある。島の菓子は、どれもこの調子だ。
大きさと重さも、この菓子を決めている。一切れは日本の感覚だと大きく、半分で足りる。作りは繊細というより大まかで、飾りの砂糖漬けの果実も切らずに並べる。ショーケースでひときわ目を引くのは、そのためだ。
あの緑を、シチリアの名産であるピスタチオの色だと思う人は多い。だが記録をたどるかぎり、この緑は着色だ。島にピスタチオの菓子が多いのは確かだ。だが、名産だからその色にしている、というわけではない。
文献の記録
| 年 | 記録 | 資料 |
|---|---|---|
| 1348 | パン生地でチーズを包んで焼いたものを「cassata」と呼んでいる。いまのところ最古の記載 | アンジェロ・セニージオ『デクラルス』(シチリア語・ラテン語辞典の写本) |
| 17世紀 | 窯に入れる作り方が二つ。いまのカッサータ・アル・フォルノにあたる | サン・マルティーノ・デッレ・スカーレ修道院の料理書(刊行2007年) |
| 1785 | 「甘くしたリコッタを、甘い生地で包んだ丸いトルタ」。名の由来に四つの説を並べ、ラテン語 caseus を採る。飾りの記述はない | ミケーレ・パスクアリーノ『シチリア語語源・伊・羅辞典』(原文を開く) |
| 1799 | マジパンと砂糖のグラッサと砂糖漬けの果実で飾ったカッサータ | パレルモの修道院の記録 |
| 1825 | 「cassate in freddo」。焼かない冷たいカッサータが現れる | パレルモの修道院の記録 |
| 1846 | 諺「Cui n'appi n'appi cassati di Pasqua」。復活祭との結びつきで、いま確かめられる最古のもの | スカルチェッラ『シチリアの諺・言い回し集』(原文を開く) |
| 1868 | 定義はなお「リコッタとほかの材料で作る菓子」。同じ形の氷菓も cassata と呼ぶとある | アントニーノ・トライナ『新シチリア語・伊辞典』(原文を開く) |
| 1872 | 「アラビア語の kas'at(大きく深い鉢)に由来するように思われる」。本人は推測と断っている | ミケーレ・アマーリ『シチリアのムスリムの歴史』第3巻892頁の注(原文を開く) |
| 1873 | パレルモの菓子職人サルヴァトーレ・グリが、ウィーンの催しで砂糖漬けの瓜の飾りを披露したとされる | (研究者の調査による) |
| 1876 | なお「砂糖で甘くしたリコッタを、丸い形の甘い生地で包んだトルタ」。カッサータに似せた氷菓も、とある | ヴィンチェンツォ・モルティッラーロ『新シチリア語・伊辞典』(原文を開く) |
| 1879 | 復活祭に、婚約者が相手へカッサータを贈る | ジュゼッペ・ピトレ『シチリアの誕生・婚礼・葬送の習わし』(原文を開く) |
| 1880 | 諺「Tintu cui perdi li cassati di Pasqua(復活祭のカッサータを取り逃がす者は情けない)」 | ジュゼッペ・ピトレ『シチリアの諺』第4巻(原文を開く) |
観察記録
| № | 年月 | 町 | 図 | 所見 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 01 | 2010(当時のサイト「シシリアの車窓から」を開く) | シチリア | ショーケースの中央の緑のケーキとその右がカッサータ。「非常に重たいリコッタチーズてんこもりのケーキ」。同じ店にカンノーリ。島ではピスタチオ入りの緑のマジパンもよく目にする | 当時のサイト「シシリアの車窓から」を開く | |
| 02 | 2010.04.28(手書きの旅日記・著者への聞き取り) | パレルモ | 皿に取り分けた一切れ。白いグラッサ、側面の緑のマジパン、ジェノワーズ、リコッタのクリーム、ドレンチェリーとオレンジピール。クリームの中身は店の人に尋ねて分かった。ショーケースには切り分けたものが並び、ホールも置かれていた。「非常に重たく、そしてデカイ…」 | 手書きの旅日記・著者への聞き取り | |
| 03 | 2010.04.28(手書きの旅日記・著者への聞き取り) | パレルモ | ![]() | 冷蔵ケースに、ホールのカッサータが値札を付けて並ぶ。白いグラッサの上に、砂糖漬けの果実を花の形に置いた飾り。胃がもたれて食べられず、焼き菓子を6種類ほど持ち帰った | 手書きの旅日記・著者への聞き取り |
| 04 | 2010.04.29(手書きの旅日記) | パレルモ | ブッチェッラート、マジパン細工、カンノーリなどを食べる。シチリア菓子について「やたらとricottaのクリームを使う。マジパン菓子が多い。しかも緑に着色。意外とどれもうまい」と書く(カッサータの名は無し) | 手書きの旅日記 | |
| 05 | 2012.04.17(当時のブログ「Milano Salone」を開く) | ミラノ | 南イタリアの菓子として、カンノーロと並んで一口大のカッサータ。緑のマジパンのドームに白いクリームと砂糖漬けのチェリーがのる | 当時のブログ「Milano Salone」を開く |
この菓子を買った店
- Mazzaraパレルモ・イタリア2010.04.29
- SCARINGIミラノ・イタリア2012.04.17
店名は写真の看板・値札・紙袋から起こしたもの。住所は写真に写っていたもの、または後から調べて確かめたもの。
この菓子に出会った旅
- 2010.04朝のカッサータ
