炒ったアーモンドを蜂蜜で固めた、聖夜の菓子
トゥロン
Turrón[tuˈron](スペイン語) / Torró(カタルーニャ語・バレンシア語)
- 発祥
- スペイン・バルセロナEspaña / Barcelona(作るのはおもに Jijona)
- 分類
- 砂糖菓子
- 主材料
- アーモンド・蜂蜜・砂糖・卵白(オブラート)
- 地方
- カタルーニャ州 / バルセロナ県
- 近縁
- クッサンドリヨン
- 記録
- 2件
- 期間
- 2010–2019
- 図版
- 8点








定義
トゥロンは、スペインのクリスマスの菓子だ。炒ったアーモンドを、煮つめた蜂蜜と砂糖、泡立てた卵白で固めたもの。カタルーニャ語とバレンシア語では「トゥロ(torró)」と呼ぶ。粒のアーモンドを白い飴に閉じこめた硬い板と、それを挽いて練り上げた柔らかいもの、大きく二つの姿がある。
硬いほうは「アリカンテのトゥロン(turrón de Alicante)」、柔らかいほうは「ヒホナのトゥロン(turrón de Jijona)」と呼ばれ、略して「アリカンテ」「ヒホナ」とも言う。名前は二つでも、作る町は同じ。バレンシア地方の南にある、ヒホナ(Jijona。バレンシア語ではシショナ、Xixona)という小さな町だ。アリカンテ(Alicante)は、そこから積み出した港町の名による。
由来
作り方は、古くから書き残されている。15世紀のカタルーニャ語の菓子の本には、炒ったヘーゼルナッツに同じ重さの蜂蜜を合わせ、卵白を加えて煮つめ、熱いうちに板にする手順が載る。組み立ては、いまの硬いトゥロンとほとんど同じ。1460年ごろには、バレンシアの医者が書いた長い詩にも、と並んでトゥロンの名が出てくる。
名前の由来は、二つの説に分かれる。「炒る」説は、1611年のスペイン語の辞書から。トゥロンを「あぶる(turrar)」と同じ源の言葉だとした。「土くれ」説は、カタルーニャの言語学者から。姿が土くれ(terró)に似ているから、と唱えた。カタルーニャ語の大きな辞典は二つを並べ、どちらとも決めていない。
早くから名を知られたのも、ヒホナの町だ。1610年、バレンシアの歴史家エスコラノは、アリカンテとヒホナで作るトゥロンが王侯への贈り物にされると書いた。翌年の巻によれば、ヒホナのトゥロンは小箱に詰められ、ヨーロッパじゅうに出回っていたという。
分布
いまもトゥロンの中心は、ヒホナの町。スペインのクリスマス菓子の6割以上が、この町で作られる。ヒホナで決まった作り方で作ったものだけが「ヒホナ(Jijona)」と「アリカンテのトゥロン(Turrón de Alicante)」の名を名乗れる。
18世紀から20世紀のはじめにかけて、ヒホナの家族は荷車にトゥロンを積み、スペイン中へ売りに出た。商いが軌道に乗れば、町の中心の家の玄関先に店を構える。作るのはクリスマス前の数カ月なので、夏はアイスクリームを作る人も多かった。バルセロナにも、ヒホナの家族の店がいまも残っている。
バルセロナの Casa Colomina も、ヒホナで作ったトゥロンを売る店だ。ショーケースには大きな塊が積まれ、切り分けて目方で売る。札はどれも二段で、上にカタルーニャ語の Torró d'alacant、下にスペイン語の Turrón de alicante。包みには「ヒホナ製」と刷られ、名を守る委員会の丸い印も付いている。
構造と製法
硬いアリカンテは、蜂蜜と砂糖と卵白を強い火で煮つめた白い飴に、炒ったアーモンドを混ぜて作る。型に詰め、表面に食べられる薄い紙、オブラートを貼って切り分ける。柔らかいヒホナは、その塊を冷ましてから石臼で挽き、もう一度火にかけて練り上げたもの。白っぽい茶色の練り物に、アーモンドの粒が不揃いに散る。手間は、硬いほうが45分ほど、柔らかいほうは2時間ほど。
等級は、アーモンドの多さで決まる。いちばん上の「スプレマ(Suprema)」なら、硬いほうでもアーモンドを6割以上使う。これも、名を名乗るための EU の決まりの一つだ。香りづけにシナモンを使ってもよい。
バルセロナで売られていた硬いトゥロンの包みには、「アーモンド64.4%、蜂蜜19%、砂糖、卵白、オブラート」とあり、最上級の印が刷られている。詰め合わせの箱を開けると、白い飴に丸ごとのアーモンドが埋まった硬いもの、薄茶でアーモンドの粒が散る柔らかいもの、チョコレートに丸ごとのアーモンドを埋めたものが入っていた。どれも味は素朴で、アーモンドがやさしい。
変種と周辺
同じ店には、材料を替えたトゥロンも並ぶ。削ったココナッツを混ぜたもの、クルミ入りのもの、卵黄入りの柔らかい生地の表面を砂糖で焦がしたもの。焦がしたものの札は、カタルーニャ語で Torró de crema cremada。を小さな形にして焼いたマサパン(mazapán)の箱も、トゥロンの隣に置かれている。
カタルーニャの内陸の町アグラムントにも、町の名で呼ばれるトゥロンがある。蜂蜜とアーモンドかヘーゼルナッツを、2枚のオブラートではさんだ円い板。これも、アグラムントで作ったものだけが、その名を名乗れる。イタリアのトッローネやフランスのヌガーも、炒ったナッツを蜂蜜と卵白で固める仲間だ。
フランス・バスク地方のトゥーロン(touron)は、名前は近いが別の菓子だ。挽いたアーモンドと砂糖の生地、つまりマジパンに、果物の砂糖漬けやナッツ、色を練りこんで四角い棒にし、切って売る。蜂蜜も卵白も使わず、アーモンドも炒らない。
ペルーのリマには、同じ名でまったく違うトゥロンがある。「ドニャ・ペパのトゥロン(turrón de Doña Pepa)」は、を効かせた小麦粉の生地の棒を重ね、果物や香辛料で香りをつけた黒砂糖の蜜をかけ、色とりどりの粒の砂糖で飾ったもの。10月の「奇跡の主(Señor de los Milagros)」の祭りの菓子で、腕の動かなくなった女性が、治ったお礼に作ったのが始まりと語られる。
供される場面
トゥロンはクリスマスの菓子で、カタルーニャ語の辞典も torró を「クリスマスの食べ物」と説明する。作るのはクリスマス前の数カ月に集中し、アリカンテ県では、この時期に店先で塊を切って量り売りするのがならわしだ。
それでもクリスマスから遠い5月の末に、バルセロナの店ではトゥロンが1キロ19.40ユーロで量り売りされていた。詰め合わせの箱や、一切れ2ユーロの小分けもある。隣には、アーモンドとシナモンのポルボロン(ほろほろと崩れる焼き菓子)や、砂糖がけのアーモンドの袋が並ぶ。
文献の記録
| 年 | 記録 | 資料 |
|---|---|---|
| 15世紀 | カタルーニャ語の菓子の本に、炒ったヘーゼルナッツ・同じ重さの蜂蜜・卵白で板にするトゥロンの作り方 | 『あらゆる砂糖菓子の本』120番(カタルーニャ語の大辞典の引用) |
| 1460ごろ | バレンシアの医者の風刺詩に「マルメロ、トゥロン」 | ジャウメ・ロッチ『鏡(Spill)』(カタルーニャ語の大辞典の引用) |
| 1610 | アリカンテとヒホナで作るトゥロンは、スペインから王侯への特別な贈り物 | エスコラノ『バレンシア史十年』第1部(原文を開く) |
| 1611 | ヒホナのトゥロンは小箱に詰められ、ヨーロッパじゅうに出回る | エスコラノ『バレンシア史十年』第2部(原文を開く) |
| 1611 | 辞書がトゥロンを「アーモンドや木の実を蜂蜜で炒る甘いもの」とし、「あぶる」と同じ源とする | コバルビアス『カスティーリャ語宝典』(原文を開く) |
| 1939 | 国が「ヒホナ」の名をヒホナで作るトゥロンだけのものとし、ほかの土地での使用を禁じる(官報は1940年) | 産業商業省の命令(官報1940年3月12日)(原文を開く) |
| 1996 | ヒホナの町で作ったものだけが「ヒホナ」「アリカンテのトゥロン」を名乗れる、と EU が決める | 欧州委員会「Turrón de Alicante」(原文を開く) |
| 2002 | アグラムントの町で作ったものだけが「アグラムントのトゥロン」を名乗れる、と EU が決める | カタルーニャ州農業局「大地の産物」 |
観察記録
| № | 年月 | 町 | 所見 | |
|---|---|---|---|---|
| 01 | 2010.05.21(手書きの旅日記・著者への聞き取り) | バルセロナ | 大きな塊を切って量り売り(1キロ19.40ユーロ)。札はカタルーニャ語とスペイン語の二段。アリカンテ(硬い)、ココナッツ、クルミ、焦がしたクリームなど。この店でトゥロン数種にポルボロンとマサパンを合わせた詰め合わせの箱を買い、3日後に開けて、硬いもの・柔らかいもの・チョコレートのものを食べ比べた。どれもアーモンドと砂糖がぎっしり詰まり、一切れで食べごたえがある。味は素朴で、アーモンドがやさしい | 手書きの旅日記・著者への聞き取り |
| 02 | 2019.11.14(X(Twitter)の投稿) | リマ | 「ドニャ・ペパのトゥロン」を掲げる店が並んでいた | X(Twitter)の投稿 |
この菓子を買った店
- Casa Colominaバルセロナ・スペイン2010.05.22
- Brunellsバルセロナ・スペイン2012.03.07
- PASTELERIA SAN MARTÍNリマ・ペルー2019.11.14
店名は写真の看板・値札・紙袋から起こしたもの。住所は写真に写っていたもの、または後から調べて確かめたもの。