卵黄と砂糖を練って丸めた、小さな玉
イエマ
Yema[ˈʝema]
- 発祥
- スペインEspaña
- 分類
- 砂糖菓子
- 主材料
- 卵黄・砂糖(粉砂糖をまぶすか、飴をかける)
- 記録
- 2件
- 期間
- 2010–2014
- 図版
- 6点






定義
イエマ(yema)は、卵黄と砂糖でできたスペインの小さな菓子だ。yema は、スペイン語で「卵黄」のこと。卵黄と砂糖を弱火で練り、卵黄ほどの玉に丸めて、粉砂糖をまぶすか飴をかけて仕上げる。一つずつ紙で包んで売られることが多い。アビラの「サンタ・テレサのイエマ(yemas de Santa Teresa)」や、修道院で作られるものがよく知られている。
由来
yema のもとは、ラテン語で「芽」を意味する gemma だ。植物の芽を指した言葉から、卵の黄身の意味が生まれた。スペイン王立アカデミーの辞書に「砂糖と卵黄で作る乾いた菓子」の意味が加わるのは、20世紀のはじめになってから。
菓子そのものは、辞書に載るよりずっと古い。18世紀の半ば、スペイン王家の菓子職人フアン・デ・ラ・マタが出した菓子の本に、「卵黄の菓子(yemas de huevo)」の作り方が載っている。卵黄12個に粉砂糖と、レモンの皮を混ぜ、弱火で練って「卵黄ほどの大きさと形の小さな玉」にする。飴でくるむか乾いた砂糖の衣をかけ、一つずつ小さな紙に包む。いまのイエマと、ほとんど変わらない。
いちばん名の知れたアビラのイエマは、聖テレサの修道院で生まれたと思われがちだ。作り手の説明では、1860年ごろ、アビラの菓子職人イサベロ・サンチェスが自分の店で作りはじめ、町の守り聖人の名をつけた。聖テレサは16世紀にこの町で生まれ、修道会(カルメル会)の改革に力をつくした修道女。店は名を変えて、いまもこのイエマを作っている。
分布
イエマはスペインの各地で作られている。アビラのほかにも、セビージャのサン・レアンドロ修道院の「サン・レアンドロのイエマ(yemas de San Leandro)」のように、町や修道院の名をつけたものがいくつもある。サン・レアンドロでは、いまも修道女たちが作り続けている。聖クララにはじまる修道会(クララ会)の、各地の修道院にちなんだ「サンタ・クララのイエマ(yemas de Santa Clara)」もある。
構造と製法
材料は、ほぼ卵黄と砂糖だけ。砂糖はそのまま混ぜることも、先にシロップに煮てから卵黄を加えることもある。鍋で練ってもったりさせたら、冷まして小さく丸める。仕上げは二通り。粉砂糖をまぶした白っぽいものと、飴をかけてつやを出したものだ。古い本の作り方も、この二つを書き分けている。
紙に一つずつ包まれたサンタ・クララのイエマは、ひと目ではキャンディーのように見える。粉砂糖に覆われた外側はカリッとしていて、中はふわっと崩れる。外と中で、まるで違う食感だ。
変種と周辺
卵黄と砂糖の練りものは、玉にせずに使われることもある。スポンジなどの上に塗って表面を焦がしたものが「焼いた卵黄(yema tostada)」。玉のイエマとは別の菓子で、ケーキにも、トゥロン(アーモンドを蜂蜜と砂糖で固めた菓子)にもこの名がつく。卵黄を焼いて色をつける菓子は、18世紀の菓子の本にもすでに見える。
バレンシアの菓子店のケースには、卵黄色の生地で全体を包み、上をつまんで立てた先を焦がした、つやのある小さな菓子が銀の盆に並んでいた。焦げ目とつやのある姿は、粉砂糖をまぶした玉のイエマより、焼いた卵黄の菓子に近い。
卵黄と砂糖の菓子は、隣のポルトガルにも多い。17世紀にポルトガルで初めて印刷された料理書には、卵黄を煮詰めた砂糖で練る「やわらかい卵(ovos moles)」がある。18世紀のスペインの菓子の本にも、同じ名の「huevos moles」が出てくる。いまは、ポルトガル中部の町アヴェイロの名物として知られる。
もう一つ、卵黄を細い糸にして、煮立つシロップに落とす菓子がある。17世紀のスペインとポルトガルの料理書、そして日本の『料理物語』に、そろって載っている。どの本にも、卵の殻に小さな穴をあけて落とすやり方がある。この菓子は、スペインではウエボス・イラドス(huevos hilados)、ポルトガルではフィオス・デ・オヴォス(fios de ovos)、日本では鶏卵素麺、タイではフォイトーン(foi thong)と呼ばれている。日本までつながっているのは、玉のイエマではなく、この糸の形の菓子だ。
供される場面
19世紀の終わりのスペインの料理書は、卵の菓子についてこう書いている。昔の料理には卵で作る甘いものが数かぎりなくあり、それらは洗礼の祝いの日に決まって出るデザートだった。
文献の記録
| 年 | 記録 | 資料 |
|---|---|---|
| 1611 | 卵黄を細い糸にしてシロップに落とす菓子の作り方。穴をあけた匙が無ければ、卵の殻でもできる、とある | 王の料理長の料理書『料理と菓子の技術』(原文を開く) |
| 1680 | ポルトガルにも、卵黄の糸の菓子(「卵のそうめん」)と、卵黄を砂糖で練る ovos moles がある | ポルトガル最初の印刷された料理書『料理の技術』(原文を開く) |
| 1747 | いまのイエマとほぼ同じ作り方。卵黄と砂糖を練って卵黄ほどの玉にし、一つずつ紙に包む | 王家の菓子職人の本『菓子の技術』(原文を開く) |
| 1914 | 辞書の yema に、卵黄の意味と並んで菓子の意味が載る | スペイン王立アカデミーの辞書(原文を開く) |
観察記録
| № | 年月 | 町 | 所見 | |
|---|---|---|---|---|
| 01 | 2010.05.27(手書きの旅日記) | バレンシア | 卵黄色の生地で包み、上をつまんだ先を焦がした、つやのある小さな菓子が銀の盆に並んでいた。粉砂糖の玉のイエマより、焼いた卵黄の菓子に近い姿 | 手書きの旅日記 |
| 02 | 2014.02.11(X(Twitter)の投稿) | ホーチミン | Yemas de Santa Clara。一つずつ紙で包み、粉砂糖をまぶした卵黄色の玉。外はカリッとして、中はふわふわ | X(Twitter)の投稿 |