白い粉砂糖に焼き色の十字が残る、アーモンドのケーキ
タルタ・デ・サンティアゴ
Tarta de Santiago[ˈtaɾta ðe sanˈtjaɣo]
- 発祥
- スペイン・サンティアゴ・デ・コンポステーラEspaña / Santiago de Compostela
- 分類
- 焼き菓子
- 主材料
- アーモンド・砂糖・卵・レモンの皮・粉砂糖
- 地方
- ガリシア / ガリシア州
- 記録
- 2件
- 期間
- 2010
- 図版
- 5点





定義
タルタ・デ・サンティアゴは、スペイン北西、ガリシアのアーモンドのケーキだ。生地は挽いたアーモンドと砂糖と卵が中心で、小麦粉を入れない。丸く焼いて冷ましたら、十字の形に切った型紙を真ん中にのせ、上から粉砂糖をふる。型紙を外すと、白い面の真ん中に、十字の形だけが焼けた茶色のまま残っている。名前の「サンティアゴ」は、巡礼の町サンティアゴ・デ・コンポステーラのこと。
由来
町の名は、イエスの弟子の一人、聖ヤコブから来ている。聖ヤコブはスペイン語でサンティアゴ。その墓があるとされる町が、サンティアゴ・デ・コンポステーラだ。菓子の名は聖人を直接指すのではなく、町の名を通して聖人につながっている。古くは、ただ「アーモンドのタルト」と呼ばれていた。
ガリシアでは、アーモンドの木がほとんど育たない。中世の終わりごろから、地中海側の産地より船で運ばれてきた。砂糖と同じく値の張る材料で、貴族や裕福な聖職者の食卓に上った。サンティアゴの大学の診療所の帳簿にも、1577年に砂糖とアーモンドを買った記録がある。
作り方が分かる確かな記録は、1838年ごろにまとめられた手書きの菓子のノートだ。挽いたアーモンドに泡立てた卵白と卵黄、砂糖を混ぜ、小麦粉をひとさじ加えて、紙で作った四角い型で焼く。小さなスポンジ菓子だ。同じノートには、これによく似た、粉砂糖をかぶせた「アーモンドのタルト」もある。1893年にガリシアの港町フェロルで出た製菓書の「アーモンドのタルト」は、小麦粉とバターまで入れていた。いまの決まりでは、生地に小麦粉もバターも入れない。
十字を描き始めたのは、サンティアゴの菓子店 Casa Mora だと伝えられる。店の家族によれば、1924年、創業者のホセ・モラ・ソトが、店の名物のアーモンドのタルトに町の印の十字をあしらった。昔からの品に、ひと味違う趣を添えたかったのだという。これが当たって、町のほかの菓子店もすぐにまねたという。十字のタルトは、やがてガリシアじゅうに広まった。
分布
いまはガリシアじゅうの菓子店が作り、サンティアゴ・デ・コンポステーラの名物として知られる。ガリシア州で、決まった作り方で作ったものだけが「タルタ・デ・サンティアゴ」の名を名乗れる。聖ヤコブの墓をめざす巡礼がここ数十年で盛んになり、スペインの内外から訪れる人が増えて、菓子の名も外へ広まっていった。
名を名乗る決まりができたのは、2010年5月のこと。その同じ月に、ガリシアから遠く離れた地中海側の町で、この菓子に二度出会っている。バルセロナのスペイン料理の店では、頼むと三角に切った一切れが皿で出され、甘い赤ワインの小さなグラスが添えてあった。バレンシアの菓子店には、十字を描いた丸ごとが置かれていた。
構造と製法
アーモンドを生地の重さの3分の1より多く使う。名を名乗るための決まりの一つだ。アーモンドは脂の多い地中海の品種がよく使われ、細かく挽いて粉にする。砂糖と合わせ、卵を少しずつ加えてよく練る。香りづけに、レモンの皮や甘口のワイン、ブランデー、ガリシアの蒸留酒オルホ(orujo)を入れてもよい。丸い型に流し、180〜200度でおよそ30分。
十字は、聖ヤコブの名を掲げたの印で、町の象徴にもなっている。上と左右の端は百合の花のように開き、下は剣の刃のように細くとがる。粉砂糖をふるときにのせる型紙も、この形に切ったものだ。切り口は金色で、卵黄とアーモンドが香る。きめはふんわりとして、細かなざらつきがある。
バルセロナで出てきた一切れは、上を粉砂糖が覆い、縁にうっすら焼き色がのぞいていた。切り口は黄色く、きめが細かい。下に土台の生地は見えず、全体がアーモンドの生地でできていた。
変種と周辺
名を名乗れる作り方には、土台つきと土台なしの両方がある。土台つきは、型にパイ生地か、バターを使ったもろい生地を敷いてから、アーモンドの生地を流す。いまの決まりでは、バターを使うのは土台のほうで、上のアーモンドの生地には入れない。19世紀のノートは土台の上にアーモンドの生地をのせ、フェロルの製菓書は土台をやめて生地に小麦粉を混ぜた。土台を敷くか敷かないかは、いまもガリシアの菓子店によって分かれている。
バレンシアで丸ごとのタルタ・デ・サンティアゴを置いていた菓子店には、「ジェペルデタ(Geperudeta)」の札を立てた小さなケーキも並んでいた。アーモンドとカボチャで作る、一つ2ユーロのもの。上には粉砂糖の型紙の図柄があるが、形は十字ではない。ジェペルデタは、バレンシアの守護聖母の愛称だ。
文献の記録
| 年 | 記録 | 資料 |
|---|---|---|
| 1838ごろ | 手書きの菓子のノートに、アーモンドの小さなスポンジ菓子と、粉砂糖をかぶせた「アーモンドのタルト」の作り方。いまの作り方に近い、いちばん古い記録 | レイバル『菓子のノート』 |
| 1893 | 港町フェロルで出た製菓書に「アーモンドのタルト」。小麦粉とバターを入れ、上に粉砂糖をかぶせる | メリン『砂糖菓子職人と焼き菓子職人』 |
| 1924 | サンティアゴの菓子店 Casa Mora が、アーモンドのタルトに十字を描き始めたと伝えられる(店の家族の話) | スペイン官報(2006年)(原文を開く) |
| 1996 | 国の伝統の食べ物の目録に、ガリシアの菓子として載る | 『スペイン伝統産品目録』 |
| 2006 | ガリシアで作ったものだけが名を名乗れるように、という申し出を国が知らせる | スペイン官報(原文を開く) |
| 2008 | ガリシア州が、名を名乗るための作り方の決まりを改める。アーモンド・砂糖・卵の量と、十字の型紙が入る | ガリシア州の作り方の決まり(2008年版)(原文を開く) |
| 2010 | ガリシア州で決まった作り方で作ったものだけが「タルタ・デ・サンティアゴ」を名乗れる、と EU が決める | EU の規則(2010年)(原文を開く) |
観察記録
| № | 年月 | 町 | 所見 | |
|---|---|---|---|---|
| 01 | 2010.05.22(手書きの旅日記・著者への聞き取り) | バルセロナ | スペイン料理の店で頼むと、三角に切った一切れが、甘い赤ワインの小さなグラスと一緒に皿で出た。上は粉砂糖、切り口は黄色く、きめが細かい。アーモンドがしっかりと、それでいてやさしく香る、シンプルな焼き菓子 | 手書きの旅日記・著者への聞き取り |
| 02 | 2010.05.27(手書きの旅日記・著者への聞き取り) | バレンシア | 丸ごとのタルタ・デ・サンティアゴ。粉砂糖の真ん中に、焼き色のまま剣の形の十字。同じ店にアーモンドとカボチャのジェペルデタ(1個2ユーロ) | 手書きの旅日記・著者への聞き取り |
この菓子に出会った旅
- 2010.05朝のカフェ・コン・レチェ