郷土菓子

教皇の名をもつ、ひと口のロールケーキ

ピオノノ

Pionono[pjoˈnono](スペイン語) / Pionono de Santa Fe(サンタフェのピオノノ)

発祥
スペイン・サンタフェEspaña / Santa Fe (Granada)
分類
生菓子
主材料
卵・砂糖・小麦粉(スポンジ)・シロップ・卵黄のクリーム・シナモン
地方
アンダルシア州 / グラナダ県サンタフェ
記録
2件
期間
2010
図版
7点
マドリードサンタフェ
スペインサンタフェ
マドリードサンタフェ
スペインサンタフェ
白い皿の上、青い模様の紙カップに入った小さな筒形の菓子。上に焦げ目のついたクリームがのる
図1紙カップに立てたピオノノ。上のクリームに砂糖をふって焦がしてある。後ろの金色の包み紙には ysla と 1897(2010年5月、サンタフェの Casa Ysla で)
金属の台に白い皿。層のケーキと、紙カップの小さな筒形の菓子。手前の紙ナプキンに青い字で CASA ysla 1897
図2店の紙ナプキンに「CASA ysla 1897」。皿の右の小さな菓子がピオノノ(2010年5月、サンタフェの Casa Ysla で)
古い白黒写真。白い僧衣を着て頭に小さな丸い帽子をのせた年配の男性が、彫刻のある椅子に座る
図3菓子の名のもとになった教皇ピウス9世(イタリア語でピオ・ノーノ)。1875年、83歳の誕生日を記念してアドルフ・ブラウンが撮った写真。白い僧衣に、頭には小さな帽子写真:Adolphe Braun(1875年)/ウィキメディア・コモンズ(パブリックドメイン)
古い本の表紙。赤と緑の飾り枠の中に LA REGENTA の題字と Leopoldo Alas の署名、教会の尖塔と、赤い上着の若い男の絵
図4クラリンの小説『ラ・レヘンタ』(1884〜85年、バルセロナ刊)の表紙。第1巻の第9章で、菓子店の窓の前の子どもたちが「あれはピオノノだよ」と言い合う表紙画:Joan Llimona/ウィキメディア・コモンズ(パブリックドメイン)
白いシャツの男性がカウンターの向こうに立ち、手前の金属の盆に焦げ目のついた筒形の菓子が20個ほど並ぶ
図5盆いっぱいのピオノノと店の人。シャツの胸に CASA ysla の刺繍(2010年5月、サンタフェの Casa Ysla で)
金属の盆に、紙カップに入った焦げ目のある筒形の菓子が並ぶ。奥に CASA ysla 1897 と書いた札
図6盆に並んだピオノノ。奥の札に「CASA ysla 1897」と、サンタフェとグラナダの店の所在地(2010年5月、サンタフェの Casa Ysla で)
紙カップの中の食べかけの菓子。上に焦げ目のついたクリーム、断面に縦の筋になった巻いた生地の層
図7かじったところ。上は焦がした砂糖とクリーム、下は巻いた生地で、断面に渦巻きの筋が見える(2010年5月、サンタフェの Casa Ysla で)

定義

ピオノノは、スペイン南部、グラナダの西隣の町サンタフェの小さな菓子だ。薄く焼いたスポンジを巻いて小さな筒にし、シロップをたっぷり含ませる。それを紙のカップに立て、上に卵黄のクリームをのせ、砂糖をふって焦がしたものだ。大きさは、ひと口かふた口。いまはサンタフェだけでなく、グラナダの町の菓子店にも並ぶ。

由来

名前は、19世紀のローマ教皇ピウス9世の、イタリア語の呼び名「ピオ・ノーノ(Pio Nono)」から来ている。ノーノは、イタリア語で「9番目」。スペイン語の辞典もこの教皇の名を語源に挙げ、フランスの揚げ菓子ペ・ド・ノンヌ(pet de nonne)の名がなまって、教皇の名に寄ったのかもしれない、とも書いている。

サンタフェの老舗 Casa Ysla は1897年の創業を名乗り、ピオノノの始まりをこう伝える。創業者のセフェリーノ・イスラ・ゴンサレスは、聖母マリアを深く信仰していた。そこで、「聖母マリアは、生まれたときから罪の汚れが無い」という教えを1854年に定めた教皇ピウス9世に敬意を表して、この菓子を考えたという。筒形の生地は教皇の体、紙のカップは白い僧衣、上の焦がしたクリームは頭にのせる小さな帽子。町の大通りには、いまセフェリーノの銅像が立っている。

ただ、ピオノノという菓子の名そのものは、店の話より40年ほど古い。マドリードの新聞広告が、「カディスから届いたばかりの、アンダルシアでピオノノと呼ばれる小さなパン菓子」を、都ではまだ新しい品として売り出している。ほどなく、マドリードの喜劇では食堂でデザートに「ピオノノを二つ」と頼む客が出てくる。クラリンの小説『ラ・レヘンタ』では、菓子店の窓の前で、子どもたちが「あれはピオノノだよ」と言い合う。

20世紀のはじめには、菓子店ならどこにでもある品のたとえにまで使われた。その名が、いつしかサンタフェの名物と結びつく。20世紀の半ばの小説には、甘く酔わせる「サンタフェのピオノノ(pionono de Santa Fe)」が出てくる。やがて観光の本が「この町の名物」と書き、料理書にもスポンジとクリームで作る「サンタフェのピオノノ」の作り方が載った。

分布

いまはサンタフェの何軒もの菓子店が作っていて、町の観光案内はそのうち6軒を挙げている。老舗の Casa Ysla は、サンタフェとグラナダの町の両方に店を出している。

サンタフェの Casa Ysla は、飾り気のない素朴な構えの店だ。盆いっぱいに並べたピオノノを、店の人が運んでいた。札には「CASA ysla 1897」、紙のカップにも店の名が刷ってある。その場で食べる一つは、白い皿にのせて出てきた。グラナダの町の菓子店 Olympia 21 にも、紙のカップに立てたピオノノが並んでいた。

構造と製法

作り方の要は、生地の扱いだ。薄いスポンジを焼き、クリームを塗って巻いてから、ひと口ほどの大きさに切り分ける。それを一つずつシロップに浸して、紙のカップに立てる。生地が芯までしっとりしているのは、このためだ。シロップは砂糖と水で作り、ラム酒などのお酒を加えることもある。仕上げにシナモンをふり、上にクリームを絞って、砂糖をかけて焦がす。

Casa Ysla のピオノノは、かじると断面に巻いた生地の渦巻きが見える。上はカスタードクリームで、表面の砂糖に焦げ目がつき、しゃりしゃりした歯ざわりが残る。その下のロール生地は、しっとりとしている。

変種と周辺

中南米にも「ピオノノ」はあるが、名前が同じ別の菓子だ。アルゼンチンやペルーなどでは、薄く焼いたスポンジの生地そのものをピオノノと呼び、店で生地だけを売っている。ドゥルセ・デ・レチェ(dulce de leche。牛乳と砂糖を煮詰めたクリーム)を巻いた甘いものもあれば、ハムやチーズを巻いた塩味のものもある。プエルトリコまで行くと、同じ名前がもう菓子ではなく、料理の名前になる。熟した料理用バナナを輪にして肉を詰め、衣をつけて揚げたものだ。

フィリピンでは、薄いスポンジに砂糖とバターを塗って巻いた小さなロールケーキを、ピオノノ(pianono とも書く)と呼ぶ。1937年の学術誌の調査では、マニラの家庭の献立にたびたび出てくる。中南米でも、ペルーのリマが舞台の1895年の小説に、菓子売りの売るピオノノが登場する。19世紀にスペインと中南米、フィリピンで広く使われた菓子の名が、それぞれの土地で別の菓子に付いたとみられる。

マドリードサンタフェ
スペインサンタフェ

文献の記録

年記録資料
1846ピウス9世(イタリア語でピオ・ノーノ)が教皇になる(〜1878)スペイン王立アカデミー『スペイン語辞典』「pionono」(原文を開く)
1858マドリードの新聞広告に「カディスから届いた、アンダルシアでピオノノと呼ばれる小さなパン菓子」『Diario oficial de avisos de Madrid』1858年3月18日
1870マドリードの喜劇で、食堂のデザートに「ピオノノを二つ」マカロ『Un amigo como hay muchos』(原文を開く)
1884菓子店の窓の前で、子どもたちが「あれはピオノノだ」と言い合うクラリン『ラ・レヘンタ』第1巻第9章(原文を開く)
1895リマが舞台の小説に、菓子売りのピオノノマット・デ・トゥルネル『Herencia』(原文を開く)
1897店によれば、Casa Ysla がサンタフェで創業Casa Ysla の説明(店の紙ナプキンと札にも「1897」)
1903「菓子店でピオノノが売られるのと同じように」と、どこにでもある品のたとえにグアダラハラの新聞『La Región』262号(原文を開く)
1937マニラの家庭の献立に「Sweet (pionono)」『Philippine Journal of Science』62巻1号(原文を開く)
1953小説に、甘く酔わせる「サンタフェのピオノノ」フェルナンデス・フローレス『Frontera』
1964観光の本が「この町の名物」と書き、料理書に「ピオノノ・デ・サンタフェ」の作り方『España en paz』、『Manual de cocina』
1999サンタフェの大通りに、セフェリーノ・イスラの銅像スペインの公共彫刻の目録(原文を開く)

観察記録

№年月町所見
012010.05.31(手書きの旅日記・著者への聞き取り)グラナダ朝の菓子店のショーケースに、紙のカップに立てた小さな筒形のピオノノが、銀の盆いっぱいに並ぶ。上のクリームは焦げて照りがある。ここでも食べたとみられる手書きの旅日記・著者への聞き取り
022010.05.31(手書きの旅日記・著者への聞き取り)サンタフェ(グラナダ県)飾り気のない素朴な構えの店。店でピオノノを一つ。上はカスタードクリームに焦げた砂糖のしゃりしゃり、下は巻いたロール生地で、断面に渦巻き。生地はしっとりしていた。盆いっぱいのピオノノを店の人が運んでいた手書きの旅日記・著者への聞き取り

この菓子を買った店

  • Casa Yslaグラナダ・スペイン2010.05.31
  • ASTORIAアレキパ・ペルー2019.11.20

店名は写真の看板・値札・紙袋から起こしたもの。住所は写真に写っていたもの、または後から調べて確かめたもの。

この菓子に出会った旅

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