黒いジャムを巻きこむ、ボローニャのクリスマス
ピンツァ・ボロニェーゼ
Pinza bolognese[ˈpintsa boloˈɲeːze](イタリア語) / Penza(ボローニャの言葉)
- 発祥
- イタリア・ボローニャItalia / Bologna
- 分類
- 焼き菓子
- 主材料
- 小麦粉・バター・砂糖・卵・モスタルダ(果物のジャム)・干しぶどう
- 地方
- エミリア=ロマーニャ州 / ボローニャ県
- 記録
- 2件
- 期間
- 2010
- 図版
- 2点


定義
ピンツァ・ボロニェーゼは、ボローニャのクリスマスの焼き菓子だ。クッキーのような生地()を伸ばし、マルメロ(かりんに似た果物)などを煮詰めた色の濃いジャム「」と干しぶどうを広げて包み、細長くまとめて焼く。切り口では、明るい色の生地が黒っぽい中身を囲む形。ボローニャの言葉では「ペンツァ」と呼ぶ。
由来
ピンツァという名前は、イタリア語でいえば「ピッツァ」にあたる言葉で、平たく焼いたものを指す。昔の辞典も「ピッツァ」や「フォカッチャ」と訳している。
17世紀のボローニャの本にも「ピンツァ」は出てくる。ただ、それは干しぶどうを巻いたパンで、いまの菓子とは別のものだった。生地を伸ばして中身を巻きこむ形は、すでにこのころからあった。「1600年代からの菓子」と言われるのは、この本のことだ。
クリスマスの菓子として記録に出てくるのは19世紀の後半からだ。そのころの辞典は「干しぶどうや松の実を詰めた甘い生地で、農家の人々がクリスマスに作る」と書く。20世紀のはじめの辞典になると、中身に「モスタルダ」が加わり、生地も「パスタ・フロッラ」と書かれて、いまの姿になる。
分布
ボローニャとその周りの菓子屋やパン屋で作られる。イタリア農業省の伝統食品の一覧にも、エミリア=ロマーニャ州の品として載っている。もとはクリスマスの菓子だが、いまは一年中作られている、と州の資料は書く。
5月のボローニャでも、菓子屋の売り場で、細長いピンツァが一本ずつ袋に入れて売られていた。別の店のショーケースには、切り口を見せた一本に「Pinza bolognese」の札が立っていた。
構造と製法
生地は、小麦粉にバターと砂糖、卵を合わせたパスタ・フロッラ。厚さ1センチほどに伸ばし、真ん中にモスタルダと干しぶどうを広げ、両側から包んで細長くまとめる。あとは窯で焼き、切り分けて食べる。中のモスタルダは、マルメロ(かりんに似た果物)を長く煮詰めた、色の濃い甘いジャムのことだ。
ボローニャで買った一本は、表面に粒の砂糖が散り、焼けたひび割れから黒っぽい中身がのぞいていた。食べると、ホロッと崩れる生地の中に、ブルーベリーのような濃い色のモスタルダが包まれていた。
変種と周辺
同じ生地と同じジャムで作る菓子に、ラヴィオラがある。丸い生地を二つに折った小さな半月形で、3月19日、春の聖ヨセフの日(キリストの父ヨセフを祝う日)の菓子だ。大きく作って切り分けるクリスマスのピンツァ、一つずつ折る春のラヴィオラと、形と季節で分かれている。20世紀のはじめの辞典も、二つを別々の行事の菓子として書いている。
「ピンツァ」と呼ぶ菓子は、北イタリアの東のほうにいくつもある。ヴェネトやトリエステのピンツァは、発酵させた生地で作るパン菓子で、年明けの祭りやに食べる。名前は同じでも、ボローニャのものとは別の菓子だ。ボローニャ県の山あいの町には、同じ材料で作る別の名前のクリスマスの菓子もあった。
供される場面
クリスマスに、切り分けて家族で食べる菓子だ。19世紀の辞典が「農家の人々がクリスマスに作る」と書くように、もとは家で焼くものだった。いまは菓子屋やパン屋で、季節を問わず買うことができる。
記録から見えること
ボローニャで出会った2件は、どちらも5月のものだ。クリスマスの菓子でも、一本ずつ包んだものや、切り口を見せたものが店に並んでいた。同じ日にラヴィオラも食べていて、その日の日記は「ホロッとした生地にジャムが包まれてる類のもの。気付けばどこの店でも食べていた」と締めくくっている。
文献の記録
| 年 | 記録 | 資料 |
|---|---|---|
| 1644 | ボローニャの農家の「ピンツァ」。サフラン入りの発酵生地に干しぶどうを散らして巻いた、卵形のパン(いまの菓子とは別のもの) | タナーラ『田舎に暮らす町人の家政』(読んだのは1651年ほかの版)(原文を開く) |
| 1869〜74 | 方言の辞典に「干しぶどうと松の実を詰めた甘い生地。農家がクリスマスに作る」 | コロネーディ・ベルティ『ボローニャ方言・イタリア語辞典』(原文を開く) |
| 1901 | 方言の辞典に「干しぶどうとモスタルダを入れたパスタ・フロッラ。農家がクリスマスに作る」 | ウンガレッリ『ボローニャ方言辞典』(原文を開く) |
| 1931 | ボローニャ県の山あいの町のクリスマスの菓子「コロンバ・モンタナーラ」(パスタ・フロッラ、モスタルダ、干しぶどう、松の実) | イタリア旅行クラブ『イタリア美食案内』(原文を開く) |
| 2026 | イタリア農業省の伝統食品の一覧(第26次改訂)に、エミリア=ロマーニャ州の品として「Pinza bolognese, Penza bolognese」 | イタリア農業省 伝統食品の一覧(P.A.T.)(原文を開く) |
観察記録
| № | 年月 | 町 | 所見 | |
|---|---|---|---|---|
| 01 | 2010.05.04(手書きの旅日記) | ボローニャ | 一本買って食べた。ホロッとした生地に、濃い色のモスタルダ。表面に粒の砂糖、ひび割れから黒っぽい中身 | 手書きの旅日記 |
| 02 | 2010.05.04(手書きの旅日記) | ボローニャ | ショーケースに、切り口を見せたピンツァと「Pinza bolognese」の札。中身は黒に近い色で平たく一層 | 手書きの旅日記 |