焦がした砂糖を割る、聖ヨセフの日のクリーム
クレマ・カタラナ
Crema catalana[ˈkɾemə kətəˈɫanə](スペイン語・カタルーニャ語) / Crema cremada(カタルーニャ語) / Crema de Sant Josep(カタルーニャ語)
- 発祥
- スペイン・バルセロナEspaña / Barcelona
- 分類
- クリーム菓子
- 主材料
- 牛乳・卵黄・砂糖・でんぷん・レモンの皮・シナモン
- 地方
- スペイン北東部 / カタルーニャ州
- 記録
- 1件
- 期間
- 2010
- 図版
- 5点





定義
クレマ・カタラナは、スペイン北東部カタルーニャのクリームの菓子だ。牛乳と卵黄、砂糖をでんぷんでとろりと煮て、レモンの皮とシナモンで香りをつける。浅い器に流して冷まし、食べる直前に上へ砂糖をふって、真っ赤に焼いた鉄のこてか、ガスバーナーで焦がす。食べるときは、表面の薄いカラメルをさじで割り、下のやわらかなクリームと一緒にすくっていく。
由来
カタルーニャ語では「クレマ・クレマダ(crema cremada。焦がしたクリーム)」「クレマ・デ・サン・ジュゼップ(crema de Sant Josep。聖ヨセフのクリーム)」、あるいはただ「クレマ」と呼ぶ。「クレマダ」は、焦がす・燃やすという意味の動詞から来ている。名前のなかに、仕上げの手順がそのまま入っているわけだ。「クレマ・カタラナ(カタルーニャのクリーム)」はもともと外の土地での呼び名で、それがカタルーニャでも広く使われるようになった。
牛乳を卵でとろりと煮る料理は、14世紀にカタルーニャ語で書かれた料理書にもある。ただしこちらは甘くなく、塩で味をつけてソースに使うもの。いまとほとんど同じ作り方は、19世紀半ばにバルセロナで出た家庭料理書『ラ・クイネラ・カタラナ(La cuynera catalana)』に見える。牛乳に卵黄、でんぷんか米の粉、砂糖、レモンの皮とシナモンを入れて土鍋で煮る。冷めたら白い砂糖をふり、よく焼いた鉄のこてを当てていく。
同じ形の菓子は、フランスにもある。焼いた鉄で表面を焦がす作り方が本に載ったのは、フランスのほうが早い。17世紀の終わりにパリで出た料理書の「クレーム・ブリュレ(crème brûlée)」は、卵黄、小麦粉ひとつまみ、牛乳、シナモン、レモンの皮を鍋で煮て、砂糖をたっぷりふり、暖炉の鉄のシャベルを真っ赤に焼いて焦がす。いまのクレマ・カタラナと、材料も手順もよく似ている。カタルーニャ側は、14世紀の料理書と、聖ヨセフの日(3月19日)にクレマを食べる習わしを挙げる。どちらが先か、言い合いはいまも続く。
分布
いまはカタルーニャで、一年を通して食べる。家でも作るし、町のレストランや食堂でも、食後の甘いものとして出てくる。バルセロナ市は、これを「カタルーニャでいちばん知られた甘いもの」と紹介している。
構造と製法
バルセロナ市が紹介する作り方では、牛乳1リットルに、卵黄8個、砂糖200グラム、でんぷん40グラム。牛乳は、シナモンとレモンの皮と一緒に沸かしておく。卵黄と砂糖を混ぜたところへ漉した牛乳と溶いたでんぷんを加え、火にかけて泡立て器で混ぜ続け、煮立ち始めたらすぐに火から下ろす。あとは浅い器に流して冷ますだけ。オーブンには入れず、鍋の上だけで仕上がるクリームだ。
焦がすための道具を、カタルーニャ語で「フェロ・デ・クレマル(ferro de cremar。焦がすための鉄)」という。丸くて薄い鉄の板に、木の握りのついた細長い柄がついている。これを火で真っ赤に焼き、クレマの上にふった砂糖へ押し当てる。
バルセロナのスペイン料理の店で、晩に出てきた一皿は、浅い茶色の陶器の器に、一人分のクレマを流したものだった。クリームは淡い黄色。上の砂糖は一様ではなく、ところどころが濃い茶色に焦げている。器のふちには、アーモンドの粒がのぞく細長いクッキーが一切れ添えてあった。
変種と周辺
よく比べられるのは、いまのフランスのクレーム・ブリュレだ。こちらは生クリーム(少し牛乳を足すこともある)と卵黄をバニラで香らせ、でんぷんは入れない。多くはオーブンの低い温度で、じっくり焼き固める。液体に対する卵黄の割合も、クレーム・ブリュレのほうが多い。クレマ・カタラナは牛乳を使い、でんぷんでとろみをつけて鍋で煮る。そのぶん、口当たりが軽い。
クレマの味は、ほかの菓子にも移っている。バルセロナ市は、クレマ味のアイスクリームやリキュール、トゥロン(アーモンドを蜂蜜と砂糖で固めた菓子)、平たい焼き菓子コカ(coca)の詰め物を挙げる。19世紀の家庭料理書『ラ・クイネラ・カタラナ』には、クレマそのものを揚げる「クロケタ(cloquetas)」も載っている。焦がす前の、冷めて固まったクレマをクルミほどに切り、粉をまぶしてで揚げ、砂糖をふる。
バルセロナのある菓子店には、焦がしたクレマ味のトゥロンが並んでいた。札の名前は二段で、上に Torró de crema cremada、下に Turrón de crema quemada。同じ菓子を、カタルーニャ語とスペイン語の両方の名で売っている。
供される場面
昔は3月19日、イエスの養父・聖ヨセフの日の菓子だった。「聖ヨセフのクリーム」という呼び名に、その日が残っている。民俗学者ジュアン・アマデスは、この日にマトー(mató。熟成させない、作りたてのチーズ)か生クリーム、そして何よりクレマ・カタラナをデザートに食べない者は、よいバルセロナっ子とは言われなかった、と書いた。
文献の記録
| 年 | 記録 | 資料 |
|---|---|---|
| 1691 | パリの料理書に「クレーム・ブリュレ」。鍋で煮たクリームに砂糖をふり、焼いた鉄で焦がす作り方が、もう載っている | 『王家と町人の料理人』(原文を開く) |
| 1747 | スペインでも、王室の菓子職人の本に、砂糖をふって焼いたシャベルで焦がす卵のクリームが載る | 『菓子の技術』(原文を開く) |
| 1846 | バルセロナの家庭料理書に、いまとほぼ同じ作り方。でんぷんでとろみをつけ、焼いた鉄のこてで焦がす | 『ラ・クイネラ・カタラナ』(原文を開く) |
観察記録
| № | 年月 | 町 | 所見 | |
|---|---|---|---|---|
| 01 | 2010.05.22(手書きの旅日記・著者への聞き取り) | バルセロナ | スペイン料理の店で、浅い茶色の陶器の器に一人分。表面の砂糖はところどころ濃く焦げ、ふちにアーモンド入りの細長いクッキーが一切れ。クリームはとても柔らかく、クレーム・ブリュレより軽い、カスタードクリームに近い口当たり | 手書きの旅日記・著者への聞き取り |