郷土菓子

焦がした砂糖を割る、聖ヨセフの日のクリーム

クレマ・カタラナ

Crema catalana[ˈkɾemə kətəˈɫanə](スペイン語・カタルーニャ語) / Crema cremada(カタルーニャ語) / Crema de Sant Josep(カタルーニャ語)

発祥
スペイン・バルセロナEspaña / Barcelona
分類
クリーム菓子
主材料
牛乳・卵黄・砂糖・でんぷん・レモンの皮・シナモン
地方
スペイン北東部 / カタルーニャ州
記録
1件
期間
2010
図版
5点
マドリードバルセロナ
スペインバルセロナ
マドリードバルセロナ
スペインバルセロナ
茶色い陶器の浅い器に、淡い黄色のクリーム。表面はまだらに焦げ茶色に焼け、右のふちにアーモンドの粒がのぞく焼き菓子が立てかけてある
図1茶色い陶器の浅い器に一人分のクレマ・カタラナ。上の砂糖はところどころ濃く焦げ、ふちにアーモンド入りの細長い焼き菓子が一切れ(2010年5月、バルセロナで)
古い活字の見開き。左の頁の中ほどに斜体で「Crème brûlée.」の見出し、右の頁に続きの作り方
図2マシアロの料理書『王家と町人の料理人』1693年版(パリ)の「クレーム・ブリュレ」。卵黄に小麦粉をひとつまみ、牛乳、棒のシナモン、レモンの皮。砂糖をふり、真っ赤に焼いた暖炉のシャベル(pêle du feu)で焦がす(pp.219–220)François Massialot『Le Cuisinier roïal et bourgeois』1693年(ゲッティ研究所・インターネット・アーカイブのデジタル化)/ウィキメディア・コモンズ(パブリックドメイン)
古い活字の見開き。左の頁の中ほどに斜体で「Per fer crema.」の見出しと分量、右の頁に続きと「Fi del tercer quadern.」
図3バルセロナの家庭料理書『ラ・クイネラ・カタラナ』第3冊の「Per fer crema(クレマの作り方)」。牛乳に卵黄4個、でんぷんか米の粉、砂糖。冷めたら白い砂糖をふり、よく焼いた鉄のこてを当てる(1851年刷り、pp.84–85)『La cuynera catalana』バルセロナ、1851年(カリフォルニア大学・HathiTrust のデジタル化)/ウィキメディア・コモンズ(パブリックドメイン)
白い上着の料理人が、ステンレスの台に並んだ茶色い浅い器の一つに小さなガスバーナーの炎を当てている。どの器のクリームも表面がまだらに焦げている
図4茶色い素焼きの器に流したクレマの表面を、ガスバーナーで焦がしているところ(2009年)写真:Oh-Barcelona/ウィキメディア・コモンズ(CC BY 2.0)
ガラスケースの棚に、透明なフィルムに包まれた茶色い板状の菓子。手前の白い札に黒と青の二行の名前と「19,40€ / kilo」
図5焦がしたクレマ味のトゥロン。札の上に黒い字で Torró de crema cremada、下に青い字で Turrón de crema quemada(2010年5月、バルセロナの Casa Colomina で)

定義

クレマ・カタラナは、スペイン北東部カタルーニャのクリームの菓子だ。牛乳と卵黄、砂糖をでんぷんでとろりと煮て、レモンの皮とシナモンで香りをつける。浅い器に流して冷まし、食べる直前に上へ砂糖をふって、真っ赤に焼いた鉄のこてか、ガスバーナーで焦がす。食べるときは、表面の薄いカラメルをさじで割り、下のやわらかなクリームと一緒にすくっていく。

由来

カタルーニャ語では「クレマ・クレマダ(crema cremada。焦がしたクリーム)」「クレマ・デ・サン・ジュゼップ(crema de Sant Josep。聖ヨセフのクリーム)」、あるいはただ「クレマ」と呼ぶ。「クレマダ」は、焦がす・燃やすという意味の動詞から来ている。名前のなかに、仕上げの手順がそのまま入っているわけだ。「クレマ・カタラナ(カタルーニャのクリーム)」はもともと外の土地での呼び名で、それがカタルーニャでも広く使われるようになった。

牛乳を卵でとろりと煮る料理は、14世紀にカタルーニャ語で書かれた料理書にもある。ただしこちらは甘くなく、塩で味をつけてソースに使うもの。いまとほとんど同じ作り方は、19世紀半ばにバルセロナで出た家庭料理書『ラ・クイネラ・カタラナ(La cuynera catalana)』に見える。牛乳に卵黄、でんぷんか米の粉、砂糖、レモンの皮とシナモンを入れて土鍋で煮る。冷めたら白い砂糖をふり、よく焼いた鉄のこてを当てていく。

同じ形の菓子は、フランスにもある。焼いた鉄で表面を焦がす作り方が本に載ったのは、フランスのほうが早い。17世紀の終わりにパリで出た料理書の「クレーム・ブリュレ(crème brûlée)」は、卵黄、小麦粉ひとつまみ、牛乳、シナモン、レモンの皮を鍋で煮て、砂糖をたっぷりふり、暖炉の鉄のシャベルを真っ赤に焼いて焦がす。いまのクレマ・カタラナと、材料も手順もよく似ている。カタルーニャ側は、14世紀の料理書と、聖ヨセフの日(3月19日)にクレマを食べる習わしを挙げる。どちらが先か、言い合いはいまも続く。

分布

いまはカタルーニャで、一年を通して食べる。家でも作るし、町のレストランや食堂でも、食後の甘いものとして出てくる。バルセロナ市は、これを「カタルーニャでいちばん知られた甘いもの」と紹介している。

構造と製法

バルセロナ市が紹介する作り方では、牛乳1リットルに、卵黄8個、砂糖200グラム、でんぷん40グラム。牛乳は、シナモンとレモンの皮と一緒に沸かしておく。卵黄と砂糖を混ぜたところへ漉した牛乳と溶いたでんぷんを加え、火にかけて泡立て器で混ぜ続け、煮立ち始めたらすぐに火から下ろす。あとは浅い器に流して冷ますだけ。オーブンには入れず、鍋の上だけで仕上がるクリームだ。

焦がすための道具を、カタルーニャ語で「フェロ・デ・クレマル(ferro de cremar。焦がすための鉄)」という。丸くて薄い鉄の板に、木の握りのついた細長い柄がついている。これを火で真っ赤に焼き、クレマの上にふった砂糖へ押し当てる。

バルセロナのスペイン料理の店で、晩に出てきた一皿は、浅い茶色の陶器の器に、一人分のクレマを流したものだった。クリームは淡い黄色。上の砂糖は一様ではなく、ところどころが濃い茶色に焦げている。器のふちには、アーモンドの粒がのぞく細長いクッキーが一切れ添えてあった。

変種と周辺

よく比べられるのは、いまのフランスのクレーム・ブリュレだ。こちらは生クリーム(少し牛乳を足すこともある)と卵黄をバニラで香らせ、でんぷんは入れない。多くはオーブンの低い温度で、じっくり焼き固める。液体に対する卵黄の割合も、クレーム・ブリュレのほうが多い。クレマ・カタラナは牛乳を使い、でんぷんでとろみをつけて鍋で煮る。そのぶん、口当たりが軽い。

クレマの味は、ほかの菓子にも移っている。バルセロナ市は、クレマ味のアイスクリームやリキュール、トゥロン(アーモンドを蜂蜜と砂糖で固めた菓子)、平たい焼き菓子コカ(coca)の詰め物を挙げる。19世紀の家庭料理書『ラ・クイネラ・カタラナ』には、クレマそのものを揚げる「クロケタ(cloquetas)」も載っている。焦がす前の、冷めて固まったクレマをクルミほどに切り、粉をまぶしてで揚げ、砂糖をふる。

バルセロナのある菓子店には、焦がしたクレマ味のトゥロンが並んでいた。札の名前は二段で、上に Torró de crema cremada、下に Turrón de crema quemada。同じ菓子を、カタルーニャ語とスペイン語の両方の名で売っている。

供される場面

昔は3月19日、イエスの養父・聖ヨセフの日の菓子だった。「聖ヨセフのクリーム」という呼び名に、その日が残っている。民俗学者ジュアン・アマデスは、この日にマトー(mató。熟成させない、作りたてのチーズ)か生クリーム、そして何よりクレマ・カタラナをデザートに食べない者は、よいバルセロナっ子とは言われなかった、と書いた。

マドリードバルセロナ
スペインバルセロナ

文献の記録

年記録資料
1691パリの料理書に「クレーム・ブリュレ」。鍋で煮たクリームに砂糖をふり、焼いた鉄で焦がす作り方が、もう載っている『王家と町人の料理人』(原文を開く)
1747スペインでも、王室の菓子職人の本に、砂糖をふって焼いたシャベルで焦がす卵のクリームが載る『菓子の技術』(原文を開く)
1846バルセロナの家庭料理書に、いまとほぼ同じ作り方。でんぷんでとろみをつけ、焼いた鉄のこてで焦がす『ラ・クイネラ・カタラナ』(原文を開く)

観察記録

№年月町所見
012010.05.22(手書きの旅日記・著者への聞き取り)バルセロナスペイン料理の店で、浅い茶色の陶器の器に一人分。表面の砂糖はところどころ濃く焦げ、ふちにアーモンド入りの細長いクッキーが一切れ。クリームはとても柔らかく、クレーム・ブリュレより軽い、カスタードクリームに近い口当たり手書きの旅日記・著者への聞き取り
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