郷土菓子

発酵種でふくらませた、ドーム形のクリスマスの菓子

パネットーネ

panettone[panetˈtone](イタリア語) / panattón(ミラノ語) / panetón(スペイン語。ペルーなど)

発祥
イタリア・ミラノItalia / Milano
分類
菓子パン
主材料
小麦粉・バター・卵黄・砂糖・レーズン・柑橘の皮の砂糖漬け・発酵種・塩
地方
ロンバルディア州 / ミラノ県
記録の年
2011–2019

定義

パネットーネ(panettone)は、ミラノのクリスマスの菓子だ。パンのように発酵させた甘い生地に、レーズンと柑橘の皮の砂糖漬けをたっぷり混ぜ込み、円筒の型でドーム形に高く焼く。ふくらませるのは、パンのサワー種と同じ、酸味のある発酵種(pasta acida)。切ると中に縦に長い気泡が通り、手で裂くと縦にほぐれる。いまはイタリア全土で、クリスマスに食べられている。

由来

名は、ミラノ語のパナットン(panattón)から来ている。パン(pan)から生まれた語で、意味は「大きなパン」。1606年のミラノ語の小さな辞典にも、「クリスマスの日に作る大きなパン」として出てくる。同じ辞典は、たとえとして、役に立たない怠け者のこともそう呼んだ、と添えている。

18世紀の歴史家ピエトロ・ヴェッリは、昔のミラノでは、クリスマス・イブに家族で薪を燃やし、クリスマスの日には大きなパンを食卓に置いた、と書いている。「いまも民衆はそうしている」とも添える。1814年のミラノ語の辞典では、バターと砂糖、小粒のレーズンを加えたパンになり、トスカーナでは作らない、と書かれている。

名の由来には、二つの話が語られる。15世紀の終わり、ミラノを治めたルドヴィーコ・イル・モーロの宴で菓子を焦がし、台所のトーニが残りの生地で焼き直した「トーニのパン(pan de Toni)」。そして、パン店の娘に恋をした若い貴族ウゲットが、店のパンに材料を足して甘くしていった話だ。ミラノ語でレーズンをウゲット(ughett)と呼ぶのと重なる。ただ、どちらも同じ時代の記録には出てこない。活字でたどれる最も古いものは、トーニの話が1911年のブエノスアイレスの雑誌、ウゲットの話が1930年の新聞だ。

分布

19世紀の半ばには、もうミラノの外へ出ていく菓子だった。ミラノの菓子職人が外国の博覧会に出品し、1870年の辞典は、大きなものをアメリカにまで送ると書く。1935年の百科事典によれば、ミラノの工場の生産は年に3,000トンほどで、外国へも多く出ていた。

国の伝統食品の目録(PAT)にも、ロンバルディア州の菓子として載っている。ミラノでは菓子店もパン店もこれを焼く。町の商店や会社が入る商工会議所は毎年、昔からの作り方の決まりを守って焼く店を、地図にまとめている。

イタリアの外でも、クリスマスの店先に並ぶ。フランス東部アルザスの町では、フランスの菓子店にも、近所のイタリアの総菜店にも置かれていた。南米ペルーのリマでは、11月のスーパーの棚一面に、スペイン語でパネトン(panetón)と書いた箱が積まれる。菓子店にも置く店が多い。

構造と製法

どんなものをパネットーネと呼んでよいかは、国の決まり(2005年の省令)が定めている。底は丸く、上の皮は焼けて割れ、中は縦に長い気泡が通ったやわらかな生地。酸味のある発酵種の香りがすることも、条件の一つだ。レーズンと柑橘の皮の砂糖漬けは合わせて2割以上入れ、油脂はバターだけを使う。

日本では、この発酵種が「パネトーネ種」の名で知られる。イタリアから元種を取り寄せて日本の工場で育てる会社があり、パネットーネのほか、日もちのするパンにも使われている。日本で継ぎ足して守られてきた種を調べた研究でも、イタリアの発酵種と同じ酵母と乳酸菌が見つかった。

生地は二度に分けてこねる。イタリア語の辞典によれば、晩にこねてふくらませた生地に、翌朝、卵黄やレーズン、の砂糖漬けを加える。円筒の型に入れて焼くのは、それからだ。1841年のミラノ語の辞典は、生地に菱形の切り込みを入れておくと、焼き上がりに角がいくつも立つ、と書いている。

形は時代とともに変わってきた。19世紀の半ばのトリノの料理書は「ミラノ風パネットーネ」を紹介しながら、形はどんなものでもよいとしている。イタリアの人名事典によれば、昔のロンバルディアのものは背が低く、目の詰まった生地だった。卵とバターを増やして、いまのやわらかく見映えのする形にしたのは、1919年にミラノで店を開いたアンジェロ・モッタだという。

変種と周辺

国の決まりでは、レーズンや砂糖漬けを入れない生地も、中に詰め物をしたものも、上に糖衣(砂糖の衣)をかけたものも、パネットーネの生地が全体の半分以上あればパネットーネと呼べる。小さなものはパネットンチーノ(panettoncino)と呼ぶ。ピエモンテ州のピネローロでは1922年に、背の低い生地にヘーゼルナッツ入りの糖衣をかけた、パネットーネ・バッソ・グラッサート(panettone basso glassato)が生まれた。

同じ省令は、仲間の菓子の条件も決めている。のコロンバ(colomba)は、同じ発酵種でふくらませて鳩に似た形に焼き、上に糖衣と粒砂糖、アーモンドをのせる。ヴェローナのパンドーロ(pandoro)は果物を入れず、八つの角の星形の型で焼く。

供される場面

クリスマスの菓子だ。19世紀の辞典は、大きなものはクリスマスのためだけに作り、小さなものは菓子職人が一年中焼く、と書いている。ミラノには、2月3日の聖ビアージョ(San Biagio)の日の朝に、クリスマスから取っておいた一切れを食べるならわしがある。聖ビアージョは喉を守る聖人で、ミラノ語には「聖ビアージョは喉と鼻を祝福する」ということわざがある。

記録から見えること

記録はアルザスとリマの2件で、どちらもイタリアの外で出会ったものだ。アルザスの菓子店のものは、帯に「イタリアの伝統どおり、天然の発酵種で」とあり、上にアーモンドをのせて紙の型で焼いていた。切ると中に大きな空洞があり、パネットーネらしい香りは弱く、縦に裂けることもない。パン・デピス(pain d'épices。蜂蜜と香辛料の焼き菓子)の香辛料を使っている、と聞いた。

この冬、確かめたいこと

ミラノの菓子店に並ぶのは、背の高いドーム形ばかりなのか。昔のものは背が低く目の詰まった生地で、19世紀の辞典には、菱形の切り込みから角がいくつも立つ姿が出てくる。そうした形を残す店は、いまもあるのか。ミラノではパン店もパネットーネを焼く。菓子店とパン店で、焼くものに違いはあるのか。

国の決まりは、酸味のある発酵種の香りを、名の条件の一つに挙げる。その香りは、店ごとにどれほど違うのか。アルザスで出会ったものには、その香りが足りなかった。トーニやウゲットの話が、ミラノの店先でいまどう語られているのかも、聞いてみたい。

文献の記録

年記録資料
1606ミラノ語の小辞典に「クリスマスのパナトン。クリスマスの日に作る大きなパン」。たとえとして、役に立たない怠け者も指すジョヴァンニ・カピス『ミラノ語の語彙(Varon milanes de la lengua de Milan)』(1750年の刷り直しで読んだ)(原文を開く)
1783昔のミラノでは、クリスマス・イブに家族で薪を燃やし、クリスマスの日には大きなパンを食卓に置いた。「いまも民衆はそうしている」ピエトロ・ヴェッリ『ミラノの歴史』第1巻(原文を開く)
1814「パナットン」。バター・砂糖・小粒のレーズンで飾ったパンで、クリスマスに作る。トスカーナでは作らないフランチェスコ・チェルビーニ『ミラノ語・イタリア語辞典』第2巻(原文を開く)
1841卵も入る。生地に菱形の切り込みを入れると、焼き上がりに角がいくつも立つ。大きなものはクリスマスだけ、小さなもの(パナットニン)は菓子職人が一年中作るフランチェスコ・チェルビーニ『ミラノ語・イタリア語辞典』第3巻(原文を開く)
1854トリノの宮廷の料理長の本に「ミラノ風パネットーネ」。シトロンの砂糖漬けと2種のレーズン、アニスの実。形はどんなものでもよいジョヴァンニ・ヴィアラルディ『料理・菓子・食卓の概論』(原文を開く)
1865ミラノの菓子職人パオロ・ビッフィが、ダブリンの国際博覧会にパナットーネを出品ダブリン国際博覧会 公式目録(原文を開く)
1870大きな1kg以上のものはクリスマスにだけ作り、アメリカにまで送るジュゼッペ・バンフィ『ミラノ語・イタリア語辞典』第3版(原文を開く)
1911ブエノスアイレスの週刊誌が、ルドヴィーコ・イル・モーロの宮廷の料理人の「トーニのパン(pan de Toni)」の話を紹介。今回たどれた、この話の最古『PBT』370号(12月30日)(原文を開く)
1912古い習わしを守る家では、一切れを取っておいて聖ビアージョの日に食べるカルロ・ロムッシ『記念碑の中のミラノ』第2巻(原文を開く)
1919アンジェロ・モッタがミラノに店を開く。のちに工場で大量に焼き、品に M の字を付けた『イタリア人名事典』モッタの項(2012)(原文を開く)
1930ミラノ発の新聞記事が、貴族の若者ウゲットとパン店の娘の話を載せる『ジョルナーレ・デル・フリウリ』12月28日(原文を開く)
1935工場の連続窯で焼き、ミラノの生産は年に3万キンタル(3,000トン)ほど。ジェノヴァなどでも作り、外国へも多く出す『イタリア百科事典』「PANETTONE」(原文を開く)
1955モッタが最初の海外の会社をペルーのリマに作り、南米の生産と販売の拠点にしようとする『イタリア人名事典』モッタの項(2012)(原文を開く)
2005国の省令が「パネットーネ」「パンドーロ」「コロンバ」などの名を使う菓子の形・材料・工程を定める(7月22日)生産活動省と農業林業政策省の省令(2005年7月22日)、官報(一般編)177号(2005年8月1日)(原文を開く)
2017省令を改め、生地の油脂を、牛乳のクリームから作ったバターに限る(5月16日)経済発展省と農業食料林業政策省の省令(2017年5月16日)、官報(一般編)136号(2017年6月14日)(原文を開く)
2026国の伝統食品の目録(PAT)に、ロンバルディア州の「ミラノのパネットーネ」、ピエモンテ州の低い上掛けのパネットーネ、リグーリア州の栗粉のパネットーネ農業省 伝統食品の目録(PAT)第26次改訂(原文を開く)

観察記録

№年月町所見
012011.12.12(当時のブログ「Panettone」を開く)ミュルーズ帯に「LE PANETTONE ITALIEN par un Artisan Alsacien」「DE NOEL」。上にアーモンド、紙の型。「断面に大きな空洞が…」「あんまりパネットーネ独特のあの香りがない…」「縦に裂ける事も無かった…」。パン・デピスの香辛料を使っていると聞いた。近所のイタリアの総菜店にも並んでいた当時のブログ「Panettone」を開く
022019.11(X(Twitter)の投稿)リマ季節がら、スーパーにパネトンがずらりと並び、菓子店にも置く店が多い(本人の投稿)。棚一面に箱入りの「Panetón」(Winter's、Unión、Blanca Flor、Todinno、Buon Natale、Gloria など)X(Twitter)の投稿

この菓子を買った店

  • Pâtisserie Helfter Claudeミュルーズ・フランス2011.11.11

店名は写真の看板・値札・紙袋から起こしたもの。住所は写真に写っていたもの、または後から調べて確かめたもの。

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