ラム酒を含ませた、ナポリのキノコ形
ババ
Babà[baˈba](イタリア語) / Babbà(ナポリ語) / Baba au rhum(フランス語)
- 発祥
- イタリア・ナポリItalia / Napoli
- 分類
- 焼き菓子(発酵菓子)
- 主材料
- 小麦粉・卵・バター・砂糖・酵母・ラム酒
- 地方
- カンパーニア州 / ナポリ県
- 記録
- 7件
- 期間
- 2010–2012
- 図版
- 8点








定義
ババは、ラム酒入りのシロップをたっぷり含ませた、やわらかい発酵菓子だ。パンに近い生地を小さな筒形の型で焼くと、頭がふくらんでキノコのような形になる。ナポリでは町じゅうの菓子屋に並び、そのままのもののほか、生クリームやカスタードクリームをのせたもの、大きな輪の形に焼いたものまで、いろいろだ。名前はフランス語で、もとはポーランド語の「おばあさん」だとされる。
由来
シロップに浸すいまのババは、フランスの菓子として生まれた。ポーランド語の baba は「おばあさん」の意味で、フランス語の辞典は、菓子の名はその姿が似ていることから来たと説明する。ポーランド語の辞典には、17世紀の前半にすでに、菓子の baba が「黄色いパン」「サフランのパン」として出てくる。フランス語でこの菓子の名前が読める最も古い記録は、それより100年以上あとの18世紀の半ば、哲学者ディドロの手紙だ。ポーランドにはいまも、と呼ぶの発酵菓子がある。
18世紀、フランス東部ロレーヌの宮廷に、ポーランドの王位を退いたスタニスワフという人がいた。ルイ15世の妃の父だ。この人がババをフランスに広めた、と19世紀の初めから言い伝えられてきた。この話が初めて本に書かれたのは1805年、王が亡くなって40年ほどたってからだ。乾いたクグロフ(穴のある型で焼くアルザスの発酵菓子)を酒で湿らせたのが始まりだとか、『千夜一夜』のアリババから名づけたとかいう話は、さらに後の時代に付け加わった。
ババの姿は、時代とともに変わっている。19世紀前半のババは、サフランとレーズン、の砂糖漬けを入れ、で香りをつけた大きな発酵菓子だった。赤みがかった焼き色が目印で、甘いワインを添えて食べた。ラム酒はまだ無い。焼いたあとにラム酒入りのシロップへ浸す作り方は、1850年代から記録にある。1870年代の菓子の本は、ワインを添える古い作り方を「昔のババ」、シロップに浸すものを「いまのババ」と呼び分けている。
イタリアへは、フランスの菓子として入った。イタリア語の料理書にババが出てくるのは、1854年のトリノの宮廷料理人の本が最初で、それもフランス式の大きなババだ。ナポリの記録は、意外と新しい。19世紀のナポリ語の辞典に、菓子のババは載っていない。ナポリの菓子として記録に現れるのは20世紀になってからで、ブルボン朝の貴族に仕えたフランス人の料理人が持ち込んだ、と州の資料は説明している。
分布
ナポリの菓子屋なら、どこにでもある。イタリア農業省がまとめた伝統食品の一覧にも、カンパーニア州の品として載っている。ナポリの言葉で「シ・ヌ・バッバ(si' nu babbà、あなたはババだ)」と言えば、人や物のよさをほめる言い回しになる。
ナポリだけの菓子というわけではない。ローマ近郊の小さな町のバールにもあり、パレルモのバールでは、朝のコーヒーと一緒に小さな一つが出てきた。パリの菓子店でも、エクレールと一緒に買うことができた。
ナポリの老舗では、ショーケースの目立つところに、大きな輪の形に焼いたババが置かれていた。生クリームを絞り、野いちごを散らしたもので、小さなキノコ形のものはその奥に並ぶ。この店の品書きにはババとサヴァランが並び、棚には漬けのババの箱もあった。
構造と製法
生地は、小麦粉に卵とバター、砂糖、塩、酵母を合わせたものだ。二度発酵させてから焼く。型には生地を半分ほどしか入れない。ふくらんで型からはみ出た部分が、あの頭になる。焼き上がりは乾いていて、そのままでは食べない。出す前に、レモンで香りをつけてラム酒を加えたシロップに浸し、芯までしみこませる。シロップを吸って、焼き上がりの二倍ほどにふくらむ。
同じ生地を輪の形の型で焼き、シロップを含ませて中央にクリームを盛ったものが、サヴァランだ。19世紀の半ばに、パリの証券取引所のそばにあった菓子店「ジュリアン」の兄弟が作ったとされ、名前は美食家ブリヤ=サヴァランから取った。19世紀の終わりの菓子職人は、この店のサヴァランのシロップを「菓子の世界でいちばん美しい発明」と書いている。
変種と周辺
ナポリでは、ラム酒の代わりにリモンチェッロを使ったババがある。瓶に詰めたものは、土産として広く売られている。南イタリアでは、ホールケーキのように大きく焼いたババもあり、切り分けて食べる。生クリームや果物、アマレーナ(黒っぽいさくらんぼの砂糖煮)をのせたものも多い。
フランスの古い料理書では、ババはクグロフの近い仲間として扱われていた。どちらも型で焼く発酵菓子で、ポーランドやドイツ語圏、アルザスとロレーヌにまたがる家族だ。ポーランドで復活祭に焼く発酵のバプカも、同じ家族に入る。日本には「サバラン」の名で伝わり、洋菓子店の定番になった。国語辞典に載る最も古い用例は1950年代の終わりのものだ。
ポーランドのバプカは、いまも町のパン屋の品だ。ヴロツワフのパン屋では、溝のある型で焼いたバプカが、一つずつ包んで、重さを書いたラベルを貼って売られていた。「砂のバプカ」と呼ぶ、酵母を使わずに焼く種類で、プレーンとココアの生地を混ぜたマーブル模様のものだった。シロップに浸すババとは違い、焼いたままの姿で売られている。
供される場面
朝のバールから菓子屋のショーケースまで、一日じゅう目にする菓子だ。一人分の小さなものは、コーヒーと一緒に立って食べる。19世紀のパリでも、町の菓子屋は小さな型で焼いたババを売っていたと書かれている。大きな輪のババは、切り分けて何人かで食べる。
記録から見えること
7件の記録は、ローマ近郊の町のバール、パレルモのバール、ナポリの老舗、パリの菓子店、のちに勤めたミュルーズの菓子店と、場所が散らばっている。2010年の旅では、ナポリの外のババは、小さな一つがほかの菓子と一緒に出てきた。ナポリでは、飾りをのせた大きなババがショーケースの前列に置かれ、品書きの先頭近くに名前があった。同じ菓子でも、ナポリでは店の看板になっている。
文献の記録
| 年 | 記録 | 資料 |
|---|---|---|
| 1621〜43 | ポーランド語の辞典に、菓子の baba が「黄色いパン」「サフランのパン」として出てくる | クナピウシュ『ポーランド語・ラテン語・ギリシア語辞典』(『17〜18世紀ポーランド語辞典』が引く)(原文を開く) |
| 1764 | ポーランド語・フランス語・ドイツ語の辞典に「ババ:サフランで黄色く焼いた菓子」 | トロツ『新辞典』第3巻(『17〜18世紀ポーランド語辞典』が引く)(原文を開く) |
| 1767 | フランス語で菓子の名 baba が出てくる、いちばん古い記録。哲学者ディドロの手紙に「シャンピニーから毎日ババが届く」 | フランス語の大辞典(TLFi)が引くディドロの手紙(原文を開く) |
| 1805 | 「サフラン入りの菓子。ポーランド王スタニスワフ1世がフランスに知らせた」。王の名と結びつけた最も古い活字。パリの名店として挙がるのはルジェの店 | グリモ・ド・ラ・レニエール『美食家年鑑』第3年(原文を開く) |
| 1815 | サフラン、二種のレーズン、シトロンの砂糖漬け、マデイラ酒を入れた大きなババのレシピ。ラム酒は無い | カレーム『パリの王室菓子職人』第1巻(原文を開く) |
| 1835 | アカデミー・フランセーズの辞典に初めて載る。「コリント産のレーズンを混ぜた菓子の一種」 | 『アカデミー・フランセーズ辞典』第6版(原文を開く) |
| 1841 | ナポリ語の辞典に babà は「ひだ襟」の意味でだけ載る。菓子の意味はまだ無い | プオーティ『ナポリ語・トスカーナ語 家庭語彙集』(原文を開く) |
| 1854 | イタリア語の料理書で読める最も古いババ「ポーランド風ババ」。トリノの宮廷料理人による、フランス式の大きなババ | ヴィアラルディ『料理と現代の菓子の論』(原文を開く) |
| 1856 | 焼いたあとに「少量のラム酒を入れたシロップに浸す」。浸すババの、いちばん古いレシピ | バイユー『現代の菓子職人』 |
| 1873 | 「昔のババは甘いワインを添えて食べた。いまのババはシロップやリキュールに浸す」。サヴァランはジュリアン兄弟の手になると明記 | グッフェ『菓子の本』(原文を開く) |
| 1895 | 「名は『アリババと四十人の盗賊』から」「ババのシロップはラム酒だけ」。アリババ説の、いちばん古い例 | ラカム『菓子の歴史地理記念誌』(原文を開く) |
| 1932 | アカデミー・フランセーズの辞典の定義に、初めてラム酒が入る | 『アカデミー・フランセーズ辞典』第8版(原文を開く) |
| 2016 | イタリア農業省の伝統食品の一覧(第16次改訂)に、カンパーニア州の品として「Babà」 | イタリア農業省 伝統食品の一覧(P.A.T.)(原文を開く) |
観察記録
| № | 年月 | 町 | 所見 | |
|---|---|---|---|---|
| 01 | 2010.04.25(手書きの旅日記) | アルバーノ・ラツィアーレ(ローマ近郊) | ジェラートのあとに頼んだ。日記には「cosi cosi(まあまあ)」とだけある | 手書きの旅日記 |
| 02 | 2010.04.26(手書きの旅日記) | パレルモ | カフェラッテと一緒に、小さなカッサータ、カンノーロと並んで皿に出てきた小さなババ。上に刻んだピスタチオ | 手書きの旅日記 |
| 03 | 2010.04.30(手書きの旅日記) | ナポリ | ショーケースのガラスの台に、溝のある型で焼いた大きなババがいくつも並び、上に小さなババをのせていた | 手書きの旅日記 |
| 04 | 2010.05.01(手書きの旅日記) | ナポリ | 大きな輪の形に焼いたババに、生クリームと野いちごをのせたものが並んでいた。奥には小さなキノコ形のもの | 手書きの旅日記 |
| 05 | 2010.05.02(手書きの旅日記) | ナポリ | ここでババを食べた。店の人が持ってきたトレイには、生クリームを絞って野いちごを散らしたババが並んでいた。棚に「Babà al Limoncello」の箱 | 手書きの旅日記 |
| 06 | 2010.05.11(手書きの旅日記) | パリ | 「店内は温かい空間が広がっていた。エクレール、ババ購入」 | 手書きの旅日記 |
| 07 | 2012.03.21(当時のブログ「Baba au Rhum」を開く) | ミュルーズ | 勤め先の菓子店のババ・オ・ロム。「優しい甘さのシロップとしっかり効いたラム酒」 | 当時のブログ「Baba au Rhum」を開く |
この菓子を買った店
- Scaturchioナポリ・イタリア2010.05.02
店名は写真の看板・値札・紙袋から起こしたもの。住所は写真に写っていたもの、または後から調べて確かめたもの。