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-第四十九回-

 

*Vietnam_『Kannmi_Kanso』* 


 

先日、一足お先にヴェトナムで世界の郷土菓子のイベントを開催しました

 

題して『甘味完走』

 

お菓子を研究するべくユーラシア大陸を自転車で走る旅のお話

 

 

初日は外国人が中心

 

緊張とは違うベクトルの諦めという名の覚悟で挑んだ約二時間

 

つたない英語を駆使して...

 

この旅の中で何度言葉の通じない場面があった事か

 

もう言葉じゃない

 

伝えたいコトは身体で伝えるの

 

パッションがあればそれでいいのよ

 

それかgoogle翻訳よ

 

 

今回の郷土菓子は六つ用意した

 

一つ目は"バーズラー レッカリー"

 

スイス北西、バーゼルという町の郷土菓子でこの旅で初めに見つけたお菓子

 

スパイスと蜂蜜の効いたソフトクッキー、アーモンド入り

 

中に忍んだオレンジとレモンピールは仄かな青春のエッセンス

 

 

二つ目は"ロジャータ"

 

アドリア海の真珠、クロアチアはドゥブロヴニクの郷土菓子

 

お酒の効いた大人のプリン

 

オリジナルはロザリンというクロアチアのローズリキュールを使ったものだが

 

今回はコワントロー(オレンジの皮の香り)を使用した

 

トロンとしている

 

 

これは現地、クロアチアのもの

 

一切れがかなり大きくアルコールもしっかり残っている

 

ローズリキュールだけでなくサクランボのリキュールやラムなど

 

お酒なら何でもOK

 

夜のプリン

 

ガッシリしている

 

 

三つ目は"メドヴィク"

 

東欧からロシアにかけて定番となっているお菓子

 

蜂蜜とスパイスの効いた生地にねっとり甘く炊いた

 

昼ドラの嫁・姑の関係のように、それはもうねっとりと甘く炊いたミルクのクリーム

 

それを案ずる夫に扮したクルミ

 

そんなお菓子

 

 

 赤ワインと相性バッチリ

 

写真はウクライナ・ハルキウのバーにて

 

 

四つ目は"シェケルブラ"

 

アゼルバイジャンのアラブ由来の郷土菓子

 

無糖のさっぱりとしたクッキー生地の中にクルミのフィリング

 

フィリングにはクルミに加えジャリジャリと粗めのブラウンシュガーとカルダモンの香りを詰めて

 

トゲトゲの見た目の愛想の無いクッキーに甘く爽やかに香るクルミ

 

もはや口の中はツンデレ美少女

 

 

ツンデレのツンツンの部分はこの特性ピンセットで作られる

 

実際に現地で買ったものだが、これは既に日本に送ってしまったので

 

今回は変わりにハサミで代用してみた

 

This is a Tsun-Tsun-Pinset.

 

 

 

"べ、別にあんたの為に作ったわけじゃないんだからネッ!"

 

と言いながら差し出す(頭の中の)彼女

 

 

 

 五つ目は"チャクチャク"

 

中央アジアの家庭で作られるいかにも素朴な郷土菓子

 

練った生地を伸ばし1cm角にカットして油で揚げる

 

サクッと揚げた生地を煮た蜂蜜で絡めて冷やし固めれば出来上がり

 

サクッ

 

"キョウコちゃん…?"

 

サクッ

 

「何よ、そんなに見ないでよ。」

 

サクッ

 

"髪切ったんだ。良いじゃん。"

 

サクッ

 

顔を赤らめるキョウコ

 

 

 そんな素朴な味

 

 

現地の家庭で作り方を教わる

 

いかに純粋な気持ちで作るか、

 

あどけない表情で、自分に正直に、素朴に

 

素直に人のいう事を聞き、慎み、感受性豊かに

 

あと、薄過ぎず厚過ぎず 1mmくらいの厚さに延ばすのがポイントだそう

 

 

六つ目は"ベビンカ"

 

インド南西、ゴアの郷土菓子

 

ココナッツミルクの焼きプリンが何重にも層になっている

 

焼き型に少しずつ注いでは焼き、注いでは焼きを繰り返し

 

注いでは焼き、注いでは焼き、

 

あれから何年が経ったのだろうか

 

注いでは焼き、

 

私はこの厨房で 注いでは焼き、を繰り返してきた

 

注いでは焼き、

 

この 注いでは焼き、 はいつ終わるのか

 

注いでは焼き、

 

" ...もうよい...一枚ずつめくろう...食べよう。 "

 

この層は...ばあさんの逝った日のだ...

 

注いでは焼き、

 

この層は...ばあさんと此処に越してきた頃のだな...

 

注いでは焼き、

 

この層は...おもちゃ...あぁ、孫が遊びに来てくれた時か...

 

注いでは焼き、

 

この層には腕時計が...息子が私の還暦にくれた腕時計...

 

注いでは焼き、

 

この層は息子が嫁を連れて来た時...

 

注いでは焼き、

 

手紙...この層は息子が成人を迎えた時...

 

注いでは焼き、

 

この層は...?...

 

注いでは焼き、

 

指輪...この層は...ばあさんと一緒になった頃だな...

 

注いでは焼き、

 

この膨らみは...ばあさんと喧嘩した日かな...

 

注いでは焼き、

 

ビートルズのチケット...この層...ばあさんと出会った日だ

 

注いでは焼き、

 

この最下層は私がまだ十代の頃...

 

注いでは焼き、

 

甘い...

 

注いでは焼き、

 

これは...母さんの味...

 

注いでは焼き、

 

良い人生だった。ありがとう。

 

注いでは焼き、

 

 

『注いでは焼き、おじいさんとベビンカ』より

 

 

お昼は奥様方がお集まり頂いた

 

お昼は好青年

 

夜はバーで女を口説き

 

朝はパジャマでお目覚めの寝癖っ子

 

ときにカフェでラップトップを開くビジネスマン

 

ときに二次元の世界でヒキコモリ

 

ときにグルメ

 

ときに女スパイ

 

最近、そんな七変化

 

 

 

郷土菓子には味だけでなく、物語りがある 

 

いつの日か日本でも

 

甘味完走